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したがって、要するに、欧州委員会の中では、マネジメント改革が通過しなくてはならない、実現可能性という敷居がとくに高いのだ。欧州委員会はメンバーが平等な権限を持つ、合意主義の組織で、そのDGは水平に、きわめて細かく分断されている。それゆえ、権限と権能のどの一つの源をとっても、相当の抵抗に逢いながら道を横切るような変化をとおして進めるほど、強くはない。世論の圧力は弱く、間接的である。これは加盟国の間に挟まっている「階層」といえる。というのは、欧州議会が比較的弱いからであり、欧州委員会はつねにそれ自体ではいかなる公共サービスも提供しないが、公共サービスこそ公衆との直接的接触をもたらすものだからである。その他「変化を困難にする」ファクターについても、言及しなくてはならない。欧州委員会の高級官僚は分離独立した、包括的できわめて安定したキャリアを持っている―彼らは、みずからの職を守るために、つねに「結果を披露する」必要はない(Page, 1997, p.87)。ヒエラルヒーのトップ3の階層はかなり政治化されているが、これらの階層に属する人々の関心を、人目を引く政治的な話題や長期的な構造変化より、理事の4年間の任期に完遂させ得るものに集中させる傾向があるという方向において政治化しているのである。「法治国家の行政文化」は、「法治国家」の要素をかなり多量に備えているし、法の支配と標準的な手続きというよりどころは、欧州委員会のように他言語、他文化の組織を運営する困難さによって強化されることこそあれ、その逆ではない。これらすべての特徴が結合して、今に着手されるかもしれないマネジメント改革のあり方を難しくしているのだ。

 

以上のような事情はあるにせよ、経済的圧力とマネジメント理念の外部の潮流は、それでも、少なくとも、行政の大規模な近代化を欧州委員会の予定表に掲載させた。新しい欧州委員会は1995年、新しい任務につき、それによって〈健全で高効率のマネジメントのイニシアチブ(SEM2000=Sound and Efficient management Initiative)〉に着手した。この後すぐに欧州委員会自体の機構の内部改革に焦点を絞った〈行政部門および人事管理の方針の近代化(MAP2000=Modernizing Administrative and Personnel Policy)〉が続いた。こうしたイニシアチブが、政治行政体制に埋め込まれた強い制限に逆らって、どれほど前進しうるかは、これから明らかになることだ。早期に評価を行えば、何らかの進展があったことが示されるだろうが、整合性があって、調整がほどこされ、綿密に進めあれる改革を試みる際の、きわめて堅固な障害はまだ残っている(European Commission, 1998、and interviews)。

 

3.9 伝統的官僚制度:‘旧体制’だろうか?

 

パブリック・マネジメントに関連する大量のレトリックは、新(=善)と旧(=悪)とを生き生きと対比させる。旧いもの―これに対比される近代的で改革された公共部門組織は選りすぐれたものとされている―に与えられる名称は、ふつう「伝統的官僚制度」といったものになる(たとえば『ヒュー(1998年)』第2章)。したがって、この種類別体制の再検討を締めくくる前に、この‘旧体制’を探求する必要がある―なにが悪いと考えられているのかを理解するために、そして第3章2第2節から第8節までですでに論じた政治行政の世界のさまざまな特徴と、その関係をあきらかにするために―。

 

オズボーンとゲイブラー(1992, pp.11-12)は、伝統的官僚制度についてのアングロ・アメリカとオーストラリアにおける典型的論評を提示している。

 

 

 

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