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奨励賞入選論文(要約)

社会性ある観光開発を目指して

―タイにおけるエイズ問題と観光産業を例に―

 

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石井香世子

 

要約

本稿は、発展途上国の観光開発におけるメリットとデメリットを客観的に分析する。その上でエイズ・環境破壊など観光開発の弊害とされる分野に対しどのような対処が可能であり、観光分野における開発と人々の生活を共存させていく方法には、どのような選択肢があるかを提示することが本稿の目的である。本稿では、例としてタイ王国における北部の山岳観光の振興とエイズの蔓延、それに対する対応を研究することによって、これからの途上国における観光開発のあり方に対する選択肢を提示する。

タイ王国は、観光開発の分野において目覚しい発展を遂げ、アセアン諸国の中でも際立った成功を収めた国である。冷戦体制の中で米国によるパイロット・ファームとしての援助資金の集中投下を受けていたタイは、アメリカのベトナム介入へ積極的に協力する。北爆のための米国空軍の空港使用、後方休養地としての前線兵士の受入はタイに莫大な外貨をもたらし、これに呼応して巨額の資本投資が観光インフラに対して行われた。この結果、米国軍のベトナム撤退後、こうした観光インフラの原価償却のため、タイは積極的な観光化を採っていく。その結果、1980年代までには、貿易収支が赤字拡大の途を辿る中で、唯一恒常的なプラス拡大を続けてきた主要外貨獲得源となったのである。

しかし、ラオス、ミャンマーなど周辺諸国が模範としようとしているこのタイ王国の観光開発が、一方で多くの問題を生み出していることは明白な事実である。その最大の問題は北部チェンマイ県を中心としたエイズの蔓延と大量エイズ孤児群発生の問題、また南部プーケットを中心とした海洋汚染であると言える。HIVの蔓延は同時に、莫大な数のエイズ孤児の問題を生み出すことは確実であり、エイズの予防・感染者への社会的ケア・エイズ孤児対策等、国家規模の深刻な社会問題を引き起こすに至っている。

こうした社会問題の発生を理由に観光開発を否定しようとする動きも存在する。しかし、そうした観光開発を一方的に否定する意見は、タイ国の国家財政自体、主要な外貨獲得手段としての観光産業を除いては存立が不可能だという現実への認識を欠いていると言えよう。途上国における観光産業の開発には、外貨獲得収入源、雇用創出、貿易不均衡の埋め合わせといった経済的な高揚の可能性を持つという潜在的なメリットに加え、その一方でタイにおけるエイズ問題のようなデメリットの存在も否定できないことは事実である。

観光産業の側から長期的な視野を持った場合、こうしたデメリットに対する観光産業界の姿勢として、黙殺よりも積極的な問題対処への姿勢を打ち出すことは、観光受入国の人々、潜在的な観光客、また観光をめぐる諸機関の理解と協力を得ることが容易となり、ひいては観光産業の振興にも寄与する筈である。

例えばタイのエイズ問題を考えた場合、観光産業ができるエイズ問題への貢献として、(1)性的サービス産業に関する組織的犯罪(国境地域における人身売買など)に対する規律強化と自粛の態度を示すこと、(2)エイズ感染者のエンパワーメント自助組織、エイズ孤児のための基金の創設、(3)エイズ孤児の里親制度の、観光産業の国際性を活かしたシステムづくり、(4)タイ周辺のこれから観光立国化を目指す国々との、観光とエイズ予防に関する、知識と経験の共有、などが考えられる。

 

 

 

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