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ただ発展の段階のみならず、社会的のコンテクストの違い、読み手や投影すべき欲望の違いから、南紀・白浜温泉は時空間的に異なる様々な空間をめぐる表象が争っており、その形成はこの表象をめぐる争いの過程としてとらえられる。

またリゾートの開発が進むにつれて伝統的湯地場風の景観、欧米風の近代的景観、そして南国風のエキゾティックな景観という無関係な景観が並置された異種混清の空間(=ヘテロトピア)が形成されていった。この異種混淆性は白浜を多義的な空間にし、それ故異なる社会的コンテクスト、様々な主体にとって魅力ある境の空間として常に社会・文化的に(再)生産されることになった。また伝統、欧米、南国それぞれの景観に対する欲望の投影の仕方、観光客の定位するポジションは明らかにオリエンタリズム的な権力関係に基づいている。これは村落空間論などを中心とした過去の境の空間を探求した研究において、聖地や儀礼空間に当該社会の世界観を見出していったように、現代の境の空間たるリゾートにわれわれの世界観が投影されているのである。

また本稿では、境の空間にまつわる議論を異他性との関わりから「他所」「中間」「異種混淆の空間」として捉える場合に分類し、文化社会的に娯楽の空間としてのリゾートが生産される過程を描くための視点を整理した。現在もこれらの境の空間、周縁の空間にまつわる議論は空間論を中心に注目を集めており、境界や周縁などは1970年代の祝祭論から論じられた比較的古い議題であるが、今後ますます議論の展開が期待される。

 

 

 

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