この異種混淆性については、「近代におけるポストモダンの空間」*28とシールズが周縁の場所を語るように様々な用語をもって語られるが、なかでもフーコーの造語である「ヘテロトピア」*29という差異の場からなる社会的空間の概念から、いくつかの有効な認識が引き出される。フーコーは異他なる場所の潜在性を指し示すヘテロトピアという空間に、本稿で取り扱うような歓楽地などの「自由の実践」によって生産される空間も含めつつ、その性質として「単一の現実の場所」にそれ自体では相容れないいくつかの空間を並置できることを指摘し、そこが「異種混淆の場」たることを指摘している。
彼の認識で重要なのが、ヘテロトピアは、その他あらゆる空間との関係で機能し、現実の空間の内部により幻想的に創られた場であると言う点である。このような複数の異他なる空間との関係論的とらえ方は、近代メディアの発達が人々の想像力を世界中の様々な異国にまで押し広げる中で、近代のリゾートなるものがより広範囲の空間と関係を持ち、多くの異国の象徴を取り込み、その関係性の中で機能していることを理解するために非常に重要である。この点はシールズも境の場所という神話は、他の境の名声を得た場所の神話と関係を持った想像の地理上にある*30と指摘しており、異他なる空間との関係を問うことがリゾートの文化的研究においては一つの重要な視点であるといえる。
さらにヘテロトピアの概念は、明確に現実に存在するある特定の場を想定しており、想像上の空間としてのユートピアとは違い、より現実にある観光の目的地へ行く観光現象を、わけても娯楽の空間として特化したリゾートという社会的に生産された空間の性質を語る際に有効なものとなっている。この現実の場という点を考えれば、ハーヴェイ*31がイメージが実践に移されると現実の景観に物質化されるというように、理想的なイメージが物質化される過程を考える必要性が生じる。特にリゾートにあっては、土地会社などの観光業者がこのイメージを物質化することになるが、人々にイメージが語られ出してから物質化されるまでの過程を、文化・社会的コンテクストに即して考えることが必要である。
III 戦前期における南紀・白浜温泉の形成過程
以上のように境の空間たるリゾートを考察するに際して、異他性との関係からその空間を「他所」「中間」「異種混淆の空間」と見なす3つの視点に整理し、この3つの要素が不可分に共存する中でリゾートが文化・社会的に形成されると考えられた。
*28 前掲5の1]pp.276-278.
*29 1]前掲8 詳細は2]加藤政洋「『他なる空間』のあわいに」、空間・社会・地理思想3、1998、1-17頁。を参照。本稿も多くをこの文献によった。
*30 前掲5の1]p.112.
*31 ハーヴァイ,D.(中島弘二訳)「空間から場所へ、そして再び場所から空間へ−ポストモダニティの条件に関する省察」、空間・社会・地理思想2、1997、79-97頁。