日本財団 図書館


本研究は、1]前述した競走馬産地におけるツーリズムについて、今日にいたる成り立ちを背景とともに明らかにし、2]そこにおける背景要因を考察することで、より普遍的に現れ得るツーリズムの発展促進(あるいは低迷の要因となる)要素の抽出を行う。

対象とした馬産地のツーリズムは、Butlerの示した6つの段階でいうと、前半の「探検」「関与」、そして「開発」までの段階を経験したか、経験しつつあるとみられる7。それゆえ、本事例の検討によって見いだされる観光エリアあるいはツーリズム発展の背景要素は、限られたものにならざるを得ない。しかし、事例により実証された要素として提示される。

調査対象地は、近年事例における観光者の主な立ち寄り先(図2)を参考に、新千歳空港・苫小牧港の東側に限定し、静内町・新冠町に中心を置いた。この範囲において、当該ツーリズムの外観的変遷をとらえた後、同ツーリズムの規模に関わる「志向のされやすさ、すなわち、1]旅先としての想起のされやすさ(そこへの旅を思いつくことはたやすいかどうか)2]その旅の実行のしやすさ3]推定される潜在市場の大きさ」、および観光行動の発展に関わる「意図に沿った行動のとりやすさ」などに着眼し、折々の背景状況を検討する。

調査方法は、1]現地の観光者や都内・札幌の知己を通じて捜した当該観光経験者への聞き取りと出版文献・定期刊行物・インターネット上の紀行文から旅行の事例を収集し、2]牧場関係者や宿泊施設、土産店などの経営者や従業員から、観光者の立ち寄りに関する記憶や企業活動なども含めたホスト側の対応に関し、聞き取りを行った。また、3]官公部門や競馬関連団体、地元新聞社から、観光振興政策、各種調査、地域や競馬のPR活動などの関連資料や統計を収集し、併せて、観光に関する問題などについて聞き取りをした。この他、4]より包括的な範囲で、国内旅行事情や世相背景について参照する資料を収集した。

 

7 該当段階についてのButlerの説明は、以下のようなものである。その場所の魅力の発見者、およびその発見にいち早く反応し、初期に訪れる者たちは、アクセスや設備や地域情報が限られているので、少数である。これが「探検の段階」である。入込み客数が増えてくると、地域住民の中から積極的に関わってくる者がでてきて、ツーリストを主要な客層とした施設やサービスを住民が提供する「関与段階」に入る。ここでは、政府や公的機関に、交通その他の設備について、ツーリストのための改善を勧きかける声があがる。「開発の段階」では、観光市場の境界がはっきりしていることから、市場に対しターゲットを絞った宣伝がされ、設備が整う。つれてエリアの認知度が増し、入込み客数は増加する。開発に関する地域の関与と制御の力は、急速に弱くなっていく。従来のアトラクションは人為に導入された施設で補強される。そのエリアの物質的な様相の変化は、顕著なものとなるが、変化の全てが歓迎され、住民全員の賛意はない。ピーク期の観光入込み客数は、多分、居住者数と同じかそれ以上となり、観光者のタイプも変化して、冒険的な旅行に消極的な観光者が増える。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION