理事長 初演のパーティーのスピーチで、外山雄三先生が、仙台フィルで演奏会を続けることも考えていくので合唱団を解散しないようにとおっしゃったのですが…。
遠山 合唱団はたいへんな財産ですよね。子供たちもまじえて、あれだけの水準のものができたということはたいへんなことですからね。
理事長 仙台は、戦前から小学校の合唱コンクールなどで活躍してきた素地がありました。今回、仙台の合唱団がオペラの大きな柱になって、評価され、市民は非常に喜んでいます。厳しい練習が続けられたのは、あれだけ刺激的な合唱テキストを書いていただいたためだと思っています。中途半端なものだったら、脱落者も出たのかもしれません。
遠山 そうかもしれませんよ。決してやさしくないものですからね。それをあれだけやられたというのは、練習もたいへんだったでしょうね。
理事長 地方発信ということになると、どうしても郷土のヒーローやヒロインを持ち上げよう、その事跡もなるべく傷つけないようにしようとするものですが、高橋さんはあらゆる資料にあたられて、持ち上げるようなことはされなかった。それは非常に大事なことだったのかなと思っています。
遠山 そうですね。もちろん地方でつくるのだから地方色豊かなものにして楽しいものにするというのも決して悪くはないけれど、高橋さんと三善さんを選んだ以上、そういうことを期待するのは筋違いというか―。2人とも妥協なしにやられたということが立派だったと思うんですね。
理事長 それが非常に高い評価につながっていることですね。
遠山 そうですね。だいたいは地方色で売るんですよね。オペラだから、それは決していけないとは私は思わないし、楽しむのもいいことなんだけど、楽しみにもいろんな楽しみがあるわけで、三善さんの音楽は、聞くにはかなり骨が折れる面もあるわけだけど、それだけにちゃんと聞いたあとの充実感というものが余計にあるわけですからね。
理事長 心理に踏み込んだ、むずかしい内容ということは、それだけ人をひきずりこむところもあるわけですね。そういう点で、このオペラはあとあとまで生命が続くものだと思っています。
遠山 できるだけ再演ということをお考えいただくといいだろうと思いますね。それにたえうる作品なんだからね。
それにしても、いいスタッフが揃ったですね。私は、日本の指揮者の中では外山さんという人をいちばん信頼しています。ある意味で地味な方だけど、断然力のある方だと思っています。そういう方がかかわったということは幸いでしたね。
理事長 外国への発信ということでは、いかがなものでしょうか。
遠山 それは、十分に可能性があると思うんですよ。題材からいっても、外国の人の関心の対象になりうるものだし、舞台のつくり方も純日本調の情緒だけでやっているわけじゃないし、それは大いに考えていいことじゃないでしょうか。常長の事跡そのものを外国人に知ってもらう。日本の一つの姿というか、活力というか、それを知ってもらうためにも、大いに有効なわけですよね。
理事長 三善先生が「サントリー音楽賞」を受賞し、さらに作品賞として「三菱信託音楽賞」にも内定しました。三善先生は、記者会見の最後に「このオペラでは、市民・専門家・パブリックがそれぞれ自分のこととして取り組み、ほとんど奇跡のような共同作業ができた」との趣旨を語っています。私たちは、世界へ発信できる仙台の財産としていくために、その言葉を大事にしていきたいと思っています。本日は、力強く、感慨深いお話をありがとうございました。