3.2 浮体構造物の係留装置
3.2.1 沿岸構造物用係留装置の特徴
沿岸構造物に用いられる係留装置は、通常運用時は位置保持性能が高く、荒天時には大きな運動変位を許容する必要がある。浮桟橋や浮消波堤が広く適用されるようになっている現在、これまでより厳しい海象・気象条件下での係留設計が要求されることが多い。
浅海域に対応できる係留方式の従来の代表例についてその特徴をまとめて、表3.4に示す。係留系の概略の反力特性を図3.1に示す。従来の係留方式で最も一般的なのはチェーンによるカテナリー係留である。この係留方式は軟らかい係留に属しているが、10m以下の極めて浅い水深では浮体構造物の比較的小さな水平移動量でも本来のカテナリー形状が保てなくなり、容易に緊張状態に至って過大な張力が発生する可能性がある。ドルフィン・フェンダー方式はかなり硬い係留特性を有しており、位置保持性能には優れているものの、大きな変位を許容させる場合には大容量のフェンダーを採用することとなり、コスト高になることが問題である。フェンダーには定反力型フェンダーのセル型フェンダーが用いられるのが通例である。杭・フェンダー方式は水平変位を小さくすることができ、大きな潮位変化にも対応できるため、浮桟橋の係留に多用されている。フェンダーにはローラー型が用いられるが、耐荷重が小さいために、比較的小型の浮体を穏やかな内海に係留する場合に限定される。