白石●前衛の作曲家には、自分が真っ先に新しいものをやるという意識が強いけれど、ナッセンには、そういう気負いが感じられませんね。自分がいいと思うこと、おもしろいと思うものをその時々に出していくわけで、目指すものとして新しさが第一にあるわけではないという感じがするんです。
猿谷●そうですね。そういうふうに自然体でいられるところが、彼の音楽を自由に、また彼の存在をユニークなものにしているのだと思います。
作曲賞への期待
白石●ナッセンさんはとても大きな方ですけれど、楽譜や手紙の文字がすごく細かくて、びっくりしました。素顔のオリヴァーさんはどんな方なんですか。
猿谷●“字は人を表わす”のか、神経質で繊細な人ですね。厳しいところもある。でも基本的にとても優しい人です。あと記憶力がすごくよくて、日本人の名前もすぐ覚えちゃう。僕の方が忘れていて、「Mr.なになにね」と教えてもらったりしますから。
沼野●今回の作曲賞の譜面審査でも、選に漏れた最年少の16歳の少年に、わざわざ励ましの手紙を送ったと聞きました。
猿谷●彼がブリテンからアドヴァイスをもらったのも16歳で、すごく励まされたそうですから。
白石●ナッセンが審査する本選会は、ベリオやデュティユーとは違って、どういう基準で作品が選ばれるのか、ちょっと予想がつかないところがあります。ご自身と似た細部までよく書き込まれた作品を評価なさるのか、それとも自分の作風にはない大胆さとか独創性におもしろさを感じるのか。
沼野●ファイナリストには2人の日本人が含まれていますが、これまで他のコンクールでも名前を聞いたことのない人ですね。おそらくナッセンの場合、単に自分の作風に似たタイプを推すというのではなくて、指揮者としての眼から、5作品のバランスまで考えているのではないでしょうか。
猿谷●彼自身、「自分が聴きたいと思う作品を選んだ」といって、とても楽しみにしているようでした。あの人並み外れた聴覚とテクニック、指揮者として培ってきた能力、感性がどう判断するのか、僕も期待しています。