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今日の環境学習の話もあるんですけれども、小櫃川の河口湿地というのは、こういうぐあいに潮が入ってきて、ちょっと引いたときは、ここら辺に干潟ができて、葦の原っぱが広がっている。そこにカニがわさわさといるわけですね。これは確かに、小櫃川にいるわけですけれども、これがもしも船橋、三番瀬の目の前にできてきたら、歩いて行けば干潟のカニも見られますし、この水脈筋には、ハゼだとかボラが上がってきますし、さまざまなつき合い方もできる。ほんとうは私自身としては、こういうものを目指したいなと。景観的にも、葦原があって、空間的にも広くて、なかなかいいなと。見ばえもいいなと思います。

ただし、ここでよく議論になるのは、これができるんですか、成功するんですかと。うまくいった試しがないじゃないじゃないかと、よく言われます。多分、そうでしょう。うまくいかないと思います。そう簡単には。いろいろな考え方を考えたとしても。だからこそ、おもしろい。結果的に言えば、そうやって、やってみようとしてもうまくいかないところで、またいろいろな関係を考えるチャンスがある。しかも、それはだれにもわからない世界ですから、例えば私たち専門家がやるわけではなくて、地域の人だとか、あるいは先生方が小学生でも連れて行って、とにかく、ここには生物がいるから見てみようと。その中から、あまり増えてないなと。葦もあまり伸びてないなと。すると、じゃ、何でと。何がいけなかったんだろうか。じゃ、少し掘って、水を交換してみたらどうだろうか。水がないんだったら、どこかから川の水を引っ張ってきたらどうだろうかと。それから、将来的に、この場所を使って、もっといろいろな人に、こういう場所を紹介するには、どういうやり方があるか。なるべく生物との関係は深めたいけれども、生物をいじめたくないような関係がどうやったらできるだろうか。そういうさまざまなトライ・アンド・エラーの場が提供されるわけです。ですから、これからの環境学習の1つのいいフィールド、しかも、それは現存のものを使ったものをやるんではなくて、自分たちが実行してみて、その中からまた、さまざまな失敗を繰り返して、また学ぶと。非常に長い時間スケールで、半永久的に、環境あるいは生物と人間とのつき合い、そこから、さまざまな関係を理解する場所として使えるだろうと。

ですから、結論から言えば、干潟というのは、東京湾の中で非常に典型的な海岸である。そこには、いろいろな生物がいるけれども、干潟の地形も多様で、地形の多様性に沿った形で、生物も多様性が保障されている。それを何とか自分たちの手で取り戻すという形で、みんなが参加して維持していこうと。問題なのは、こういうところに行政が入ってきて−−入ってきてというか、行政はもちろんいるんですけれども、「つくってあげる。できた。できない」じゃなくて、どうせできないんだと。造成が終わって、初めてそこからみんなが参加してつくり上げていくというプロセスそのものが、人工的に環境を修復する一番大きな目的だろうと思います。そういう空間が、都市のそばに用意できて、みんなが参加して、失敗したとか、成功したとか、そういうのじゃなくて、とにかくうまくいかないということ自体を楽しむと。それは、楽しむということでは、例えば研究者も、先生方も、生徒さんもみんな同じ対等な立場で、どうせわからないんですから、みんなでわいわいできる。同じセンスで自然環境と対応しながら、見ていって、同じ疑問を持って、同じような解決策を考えることができる。非常に民主的といいますか、すべての世代にわたった考え方ができる場というものが用意されてくるんじゃないかと思います。

 

 

 

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