日本財団 図書館


それで、このカブトガニから始まって、先ほどご紹介した大分県の(写真4)この地域では、こういった自分たちの町の海とか川を、もうちょっと見てみようということを始めました。これは航空写真です。子供たちの自転車とか徒歩で行く距離からすると、なかなか自分たちの行動範囲が空間的にどんなところになっているかというのがわからないんでず。それで、ぜひここでご紹介したいのは、航空写真というものは、役場に行ったりとか、国土地理院だとか、そういうところで地域の写真が手に入ることです。自分の学区のところの空間的な配置というのがよくわかるので、海とか川とか、グラウンドレベルでいくと、ほんとうに平面的にしか見えないんですけれども、こういう写真を使うとよくわかります。例えばここの灘手の小学校の場合は、小学校の前に港があって、その向こうに大きな干潟が広がっているねというのは知っているんですけれども、どのぐらいその干潟が大きいのかとか、そういうのはわからないですよね。それで、この写真を見たら、干潟って、この港の防波堤の先より、もっと遠いところまで地面が伸びているんだねとか、空間的な広さというのがわかるようになるんですね。それで、ここの地域では、カブトガニをただ観察するという時代から、徐々に、こういった写真の中に、どこにカブトガニが住んでいるんだろうとか、あとはカブトガニにはあまり興味がないよというお子さんもいるので、他の話もして、だれだれ君のお家はどこにあって、山のほうに住んでいるのかな、それとも川の近くなのか、それとも海の近くなのかなというのも、こういう地図にプロットしていって、それで空間的な位置づけというのを見てもらうようになりました。

それで、例えば今まで子供たちが行ける場所というと、カブトガニの産卵地という海岸のところの小さな空間に行ってみるだけだったんですが、海の生き物というのは、人間が見られるのは岸辺だけだけれども、(写真4)ほんとうはもっと広い世界に生きているんだよという話になりました。では、どのぐらい遠くまで、浜にいるものが出かけて行っているの?という話になってきて、そうすると、自分たちの自転車で走り回っているスケールと沿岸の干潟の大きさとか、そういうのを空間的に比較できるようになって、では水中でどんな速さで進むんだろうとか、どうやって泳いでいるんだろうとか、そういうことにだんだん興味が向いていくようになりました。

ここの地域では、現在の航空写真を見ていたんですけれども、その中で、昔も、ここに道路があったのかなとか、港はここにあったのかなとか、過去のことに興味が向いてきたんですね。それは家族の会話の中で生まれてくるわけなんですけれども、(写真5)そういったときに、家族で会話したものを、調査にフィードバックしてもらうために、古い写真を使ってもらいました。例えばこれは1966年(昭和41年)の写真です。この昭和41年ぐらいには、景気がよくなってきたとか、だんだん豊かだという気持ちが出てきたという話が教科書の中では出てきますけれども、一つ一つの家族の記憶の中にもあります。そうすると、この時期は生活が豊かになったとはいっても、まだ、こういうふうに広い干潟があったねとか、ここに今ある港は昔はなかったんですねとか、そういう話がわかってくるわけです。そうすると、今見ている景色というのが、昔からずっとあったわけじゃなくて、道路もなかったし、港もなかったし、この古写真のような時期が、つい35年近く前にはあったんだということがわかるわけです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION