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今度、教育カリキュラムで、もっと地域に根ざして、創意工夫のある授業が行われる方向になったと思います。そういったときに、私の研究の周辺で幾つかやっている試みで、大人たちが自分たちが大好きな海や川のことを教える場をつくるとか、どういうふうに教えたらいいかなと考え出している2つの地域の例をご紹介したいと思います。これは大都市というよりも地方都市なんですけれども、方法論的には、どこの場所でも、ある程度お使いいただけるものもあるかなと思っています。

それと同時に、どちらかというと年齢層の高い方が、自分たちが体験した世界が、どんどん失われていってしまって、自分たちの子供や孫に伝わらないんじゃないかということで、どうやったら、自分たちの記憶の世界を引っ張り出してきて、みんなに伝えられるかということを試行錯誤しているような例でもあります。

それではまず1つの例です。

写真1は、小学校の教科書にも出てくるかと思うんですけれども、カブトガニという生き物です。こういった特徴のある兜のような形をしていて、私も子供のときに本や図鑑で見たことがあった動物です。これは実際のところ日本の中では、ほんとうに減ってしまっておりまして、写真2は、瀬戸内海の西のほうなんですけれども、ほんとうに瀬戸内海の端っこの、瀬戸内海に面する小さな湾に細々と住んでいるような生き物なんです。これは実は、ここにおられる方は関東地方の方が中心なんで、随分遠いところの話をするなと思われるかもしれないんですが、実は、このカブトガニを見に、中学校の修学旅行で、九州まで行くという学校もあらわれています。さらに高校になりますと、それをさらに高めて、例えば6年一貫の学校だと、中学で見に行ったところを、その後、小グループでさらにもっと研究を深めるということで、2度訪れる計画をたてるとか、そういうような例もあるわけです。

さて、今までは、例えばカブトガニ(写真1)という珍しい生き物がいると、地元の小学校や中学校では、朝早く浜に行って、このカブトガニの歩いた跡を見つけるとか、あるいは動物そのものを干潟に行って見るとか、どうしても授業の時間に制約があって、子供を夜外出させてあげられないものですから、昼間に行って、(写真3)こういう砂の中にある卵を見つけるとか、そういうことをやっていました。それで、今までは、(写真1)このカブトガニという動物を知るときに、どうしても生きている化石だとか、絶滅しそうな動物だとか、そういうシンボリックな存在として扱っていたんですけれども、そうすると、この動物だけに関心が集中しちゃうわけですよね。最近は、この動物に関する環境学習というのを、たくさんの学校でなさるようになりまして、国内の生息している場所以外では、これの仲間でアメリカやタイで生まれたものとかを買ってきて、飼育されている先生がおられたりします。あるいは、この動物は国の天然記念物ではないので、飼育することも可能ですから、10年間ぐらい学校で飼って、みんなで観察しているところもあるんですね。

 

 

 

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