そのことは、私は何年前からも注意していて、内水はひどくなりますよという話をしていたんですけれども、物が現実にできるまで、皆さんやっぱり想像することが難しかったということをおっしゃっていました。
ただ、市役所とか県庁のほうにハザードマップを作ってくださいと言っても、そういうのを作るには何年もかかって、何千万円もかかるから、作れないとか言われる。そうすると、自分の地域がどうなっていくのかということを理解しようとしたときに、あまりにも情報が出されないし、自分もどうやって考えていいかわからないということです。今、その地域の人が非常にショックを受けていて、その分野の研究をしている人に問い合わせたりという状態になっています。
その中で、私は、情報公開で行政が出す情報のほかに、地域に伝わる防災の知識というのものをもう一度見直す必要があると思うんです。今後はそういうものも大事にしながら、もっとみんなで勉強をして行政から情報が公開されるまでもなく、対策できるような方法があったら、それはそっちの仕事だとか、行政が悪いとか言っている場合じゃなく、考えることができるのかなという気がしています。
同様に海の管理というのも、昔から乱獲なんかもあったことはあったと思うんですけれども、磯物だとか干潟のものについては、それなりに持続可能な漁法とかもありまして、その代表的なものがタコつぼ漁であります。あれは育ったあるサイズのものしかとれないような構造になっていて、つぼの大きさが大きいから、そのサイズのものしかとらないということで、自然にサステイナブルな漁業というのをやってきたわけです。ただ、それが近代漁業になると、小さなタコも網で獲ってしまって資源がなくなったという報告もされています。
だから、懐古趣味というわけではないんですけれども、もうちょっと日本人のもともとも持っていたような知恵だとか判断力とかを、もう一度呼び覚ますというようなことが重要なのかなという気がしています。
宇多 きょうは九十九里の南部の話をして来ましたけれども、これと同じような問題は日本中どこでも見ることが出来ます。しかし今日お話ししたような問題に取り組む研究者というのはほとんどいません。というのも内容が科学的でないというか、IT時代のようなハイテクの時代だと、ローテクの極みみたいな仕事なので、一般の研究者はやろうとしないわけです。しかし海岸や沿岸域の記録がどんどん消えてしまっては残念だと思うんですね。
清野 日本の各地の漁村が急速に衰退してしまうという事実は大変なことだと思うんです。私が学生だった10年前にも既に同じようなことが言われていて、実際にこの10年で急速に衰退してきました。いま現在、漁村で現役の人の年齢が60代とかいう状況のところはたくさんあって、何百年と続いてきた日本の漁村文化を何らかの形でとどめておくには、今後の10年というのはとても重要ではないかなと思っています。