このように波によって移動してしまう砂を、一定の場所に留めておく方法としてヘッドランドがあります。しかしヘッドランドのような構造物で砂浜を安定化させるときには、砂の流れが変わると同時に潮の流れも変わります。つまり今、左方向から波が来て水はゆっくり左から右のほうへ流れ、この突堤のつけ根まで来て今度は沖に向かって流れている。離岸流に変わるのです。そうやって水の流動が変わるということは、生態にも影響します。ここは我々の都合のために砂浜を安定化しよう、砂を2本の突堤の間にとどまってもらうようにしているんですが、それはこの2本の突堤の間だけには効果があるけれども、その外側の浜には砂が行かないわけで、そっちの浜を守るためにはこれと同じことをかなり広い範囲にわたってやらざるを得なくなるわけです。結局今、この海岸では10基並べています。私、設計に関与したんですが、本当なら、こんなもの伸ばさないのがいいに決まっているんです。
ところが、海岸侵食が深刻な今となっては、さっきの夷隅川の南側に見えた離岸堤のように、海岸線を全部ブロックの墓場にしてしまうか、それとも、多少不便だけれども部分部分でつくらせてもらって砂を安定化するか、というどちらかを選ぶかという選択になります。要するにヘッドランドは海岸線全体にわたってブロックを並べるよりはいいだろうというものです。
ヘッドランドの最も基本的なコンセプトは、なるべく砂浜を自由にさせてやれというものです。固定させない。だから大体1km程度の間を砂が自由に動いている。一方、離岸堤とかはガチガチになる。となると生物に対しても悪いだろう。要するに海岸工学の専門家にもこうした部分で大局的というか総合的に見る目が求められるわけで、いかに安く早くできるかということだけで評価される仕事をする時代は終わったのです。
参考までにヘッドランド作るのにお金が幾らくらいかかるかというと、1基10億円ぐらいです。高いと思うでしょうが1億円程度の海岸の構造物なんていうのは、すごく貧弱なものです。1,000万円では何にもできない。そのぐらい海の工事というのはお金がかかるんです。
ちなみに日本で一番お金がかかる海岸構造物は、水深20〜30mのところにある大きな防波堤です。運輸省が港湾整備で作っている港湾の防波堤なんかになると、1m当たり2,000万円くらいかかります。でも、それが高いかというと別の考え方があって、例えばトンネルを掘るのはさらに高くて1mあたり1億円くらいかかります。
それから、もう一つ別の問題についてお話しします。今、我々がいる駐車場、これが色々な海岸で大きな問題になっているわけです。それは何かというと、駐車場の背後にはさっき見た保安林を守る土堤がありますね。あの土堤より向こう側は、保安林区域なんです。当然、一般人の車の乗り入れは禁止されます。従って海岸に遊びに来た人は、土堤より海側に駐車するしかないんです。
ここは海水浴場ですから特に夏場の日曜日は、かなり多くの人が来ます。皆、車で来ますから、駐車場が欲しいと言うんです。ですから駐車場を確保しなければならない。すると今いる場所の目の前には砂浜が広くありますね、今日見ると。今日見るとですよ。砂浜は結構広いし、ちょっとばかりこの場所に土を入れて駐車場にしようということをよくやるんです。でも、今日の時点で砂浜が広いのは南東のほうからたくさん砂が来ているからであって、これから冬場にかけて狭くなる方向に砂の動きが変わります。
つまり長期的な視点がないために、ここは徐々に侵食されている状態だというのに、まだ広いから海岸利用を図ろうと駐車場をつくってアスファルト舗装をした、という所がたくさんあります。
しかしもともとそれは海の領地ですから、波が高い時のバッファーゾーンのはずなんです。だから当然高波浪時に被害を受ける。それは人呼んで侵食なんだけれども、勝手に人がそう呼んでいるだけの話で、それは海のほうからしてみれば、侵食でも何でもない。こうして海浜というバッファーゾーンのところは、利用面と保全との摩擦が起こっているわけです。