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それで息子に聞いたんですね、そしたら「いいんじゃない。パパはそういうことをやっていた人だから」て、まあ息子もそう言ってくれたんです。それで「それじゃあお受けします」と申し上げたんです。そしたら何とおっしゃったと思いますか。お医者さまが、皆さん、たぶん医学のことわかっている方はその次の台詞がわかっていると思いますけども、普通の人はわかりませんよ、「あ、さようですか。それではこれから冷凍室へご案内します」と言われました。ほんとにびっくりしましたね。何がインフォームドコンセントかと思いました。でも、冷凍室へご案内という話はこれっぽっちもその前にはおっしゃらないんですよ。

私はそのときに、これはやはり人の善意というものをすごく裏切る話だなと。そこまで言って、「それでもよろしければ」と言うべきだと思うんです。そうしたら、私、一昨日まで神戸の六甲の修道院にいたんですけどね、そこで神父さんから話を伺った。そしたら神父さんはやはり臨終に立ち合うことがあって、そういう悲しみにしょっちゅう出会っているんですね。でも、今はほとんどの病院が亡くなった方の家族に対して、「3時間中にご退去ください」と。ひどいところでは「2時間中にご退去ください」というそうですね。私のときなんかも、お別れをしているときに何回も看護婦さんが見にきました。「早くしないか」と言わんばかしなんですね。もうだから、私はほんとにちょっと、「こういう人に何か言ってもだめじゃないかな」と、ほんとにそのときそう思ったぐらいです。だけど、やはりそういうことはたぶん、お医者さまは何の気なしにやってらっしゃるんだと思うんですよ。何も悪いことをしていると思ってらっしゃらない。もうそれだけ狎れっこになっちゃっているんですね。ですから、それはやはり恐ろしいことだということを、改めて感じてほしいんですね。

それで臨終というのは……ま、臨終といってまた意識を吹き返して臨終を何度もやる人もいるそうですけども、たいていの場合は臨終というのは1回、予めリハーサルできないんです。予めリハーサルできないで、しかもぶっつけ本番で成功しなければ、あとで何を言ってももう相手はあの世へいっちゃっているわけです。それで私のところにもいろんなことを書いていらっしゃいました。人工呼吸器というものの説明がなかったので、人工呼吸器をつけたら最後のお別れの言葉ができないというのも知らなかったと。私も知らなかったですよ。それでさっきも言うように、人工呼吸器をつければ息がよくできるようになって治るでしょと普通の素人はのどかに考えているわけです。だから、人工呼吸器をつけるかどうかと聞いてくださるときには、「でも、もしかしたら人工呼吸器をつけたら愛する方と最後のお別れの言葉はないかもしれませんよ」というところまで言ってくださらなければインフォームドコンセントではないわけです。

だから、そういうことを私はとてもお医者さまに言っていても間に合わないと思って次の本に書きました、マニュアルを。それで「ご家族は出ていってください」と言われても、「いいえ、います」ということを言うべきだということ。それから、もしそういうことがあったときには、必ず人工呼吸器のスイッチを止めたあと、管を抜いてもらってくださいと。そうすれば身近にいる人、その人を最大に愛していた人のもとには必ず何かメッセージが何かのかたちでくると思いますからと、そのことも書きました。だけど、そういうことをお医者さまもちゃんと考えてほしい。

 

 

 

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