さて強度評価を要求されるのは、老朽油タンカーとなっているが、具体的に対象とされる船は以下のすべての条件を満たす油タンカーとなる。
a. 船長は130m以上であること。
b. 船齢10年を超えていること。
c. フランジ断面積の衰耗による減少が、新造時と比べ15%を超えていること。
ここで、フランジ断面積とは、甲板および甲板付ロンジ、あるいは船底板および船底板付ロンジの断面積を意味する。
3. 縦強度評価の3条件の裏付け
ここでは、以上の3条件を満たすような老朽油タンカーに対しては、なぜ強度評価が必要であるかについて述べる。逆に、以上の限定された老朽油タンカーを強度評価しさえすれば、殆どの折損事故は防止出来るのかについて述べる。
3-1 縦崩壊強度と衰耗の関係(例)
船舶が就航している標準期間20年間に遭遇する最大曲げモーメントに対して船体の強度はどれほど余裕があるのであろうか?
船体には、静水中曲げモーメントと波浪曲げモーメントの和が作用しているが、その縦曲げモーメントが縦崩壊強度を超えると船体は折損する。縦曲げモーメントが大きくなると、船体の甲板あるいは船底構造は、縦曲げによる大きな圧縮や引き張りを受け、その局部強度を超えると部分的に座屈あるいは切断が生じ、さらに損傷が進行して全体的な断面の折損にいたる。図1に有限要素法による解析例を示しているが、この例は甲板部が座屈している。縦曲げモーメントは、船体の曲げ変形が生じても、それによって減少することがないが、強度は崩壊強度をピークとして、曲げ変形が進むと減少するので、曲げモーメントが崩壊強度に達すると、一気に船体は折損してしまう。したがって、船体の崩壊強度を作用する縦曲げモーメントよりも十分余裕を持って大きく設計することは正しい。
油タンカーとして、41kDWT級、Suezmax級、VLCC級についての典型的な例について、FEMおよび簡易解析法によって崩壊強度解析をおこなった結果が、図2に示してある。これらは、おのおのHogging, Sagging, Hogging状態における崩壊である。FEM計算結果と簡易解析結果はおおむね一致している。崩壊強度は衰耗が進めば減少するが、ここでは強度を衰耗状態の進行の関数として示している。
最大衰耗状態とは、各構造部材が船級協会(ここではNK)が規定するおのおのの局部衰耗限界まで同時に衰耗した極端な状態を考えている。大まかに言えば、上甲板や船底外板などの板厚は25%減、縦通材部材では約30%の減に相当し、フランジ面積では26〜27%減に相当する。さらに、中間衰耗状態とは、これらの衰耗の1/2を仮定した状態である。
図2に示すように、崩壊強度は、衰耗量に対してほぼ線形的に減少する。また、最大衰耗状態では、(設計)許容静水中曲げモーメントと寿命中遭遇するであろう最大波浪曲げモーメントの和に対して、85%から114%を示している。一番低い水平線が最大波浪縦曲げモーメントである。中段の水平線は標準的な積み付け状態における最大作用縦曲げモーメントである。