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1. なぜ、どんなときに駆除をするのか

 

オニヒトデはインド洋から太平洋にかけてサンゴ礁に広く分布するヒトデの一種です。10本から20本ほどの腕を持ち、腕を含めた直径が60cmほどになる大型のヒトデで3〜5cmほどの鋭いトゲがからだ全体をおおっています。オニヒトデの色にはかなりばらつきがありますが、腕は普通青灰色でトゲは赤あるいはオレンジ色をしています。トゲには毒があり、容易に人間の皮膚を突き刺し、激しい痛みをもたらします。オニヒトデは胃を口からからだの外へ出し、サンゴの生きた組織を消化吸収します。オニヒトデに食べられた直後のサンゴは白い骨格を露出しますが何日かたつと藻類が表面を覆ってしまいます。

 

1960年代のおわりごろからオニヒトデの大量発生が世界中のサンゴ礁で観察されるようになりました。沖縄では、1957から1958年に宮古島で大量発生したのち1969年には沖縄本島の恩納村沿岸あたりから大量発生が報告され、約10年をかけてほぼ沖縄本島全体のサンゴを食い尽くしたといわれています。

 

オニヒトデは大量発生をしていない時は比較的まれで昼間はサンゴの陰に隠れてなかなかみつけるのが難しい動物です。サンゴ礁の地形や餌となるサンゴがどれくらい生育しているかにもよりますが、だいたい1ヘクタール(100m×100m)に1匹から15匹くらいであるといわれています。これくらいの低い密度では、オニヒトデがサンゴを食べてもサンゴ礁にたいした影響はおよぼさないだろうと考えられています。

 

一匹のオニヒトデは1年の間に5?から13?ほどのサンゴを食べるといわれています。オニヒトデがとくに好むのは数多いサンゴの種類のなかでも成長の速いミドリイシと呼ばれる仲間です。ですから、オニヒトデの密度が小さければ、たとえサンゴがオニヒトデに食べられたとしても速く回復してしまうわけです。さらに、オニヒトデがそこに生息するサンゴを食べることによって、新しい種顛のサンゴが入り込むことの出来るスペースを作り出すことにもなります。つまり、オニヒトデはサンゴ礁の種の多様性をもたらしているとも言えます。ですから、オニヒトデの密度が低いうちはオニヒトデを駆除しなければならない理由はありません。

 

ところがあるときオニヒトデの密度が高くなると、サンゴがたくさん食べられて、サンゴの成長が追いつかなくなります。そうすると、サンゴ礁は重大な影響を受け、回復するのに長い時間がかかるようになります。このいわゆる“正常な”密度から“異常な”密度への変化はかなりはっきりしているといわれていました。密度は通常の10倍やそれ以上にまで増大し、昼間でも物陰に隠れることもなくなり、それまでは食べなかった成長の遅い種類のサンゴも食べるようになります。こうなると、サンゴ礁の回復はなおさら時間がかかることになってしまいます。

 

 

 

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