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シナリオ1、2のいずれの場合であったとしても、ある範囲のサンゴ礁を確実にオニヒトデの食害から守るためには、予知できないオニヒトデ個体群の増大を想定して駆除を続ける必要があると言える。とくに、B域では何らかの影響で個体群密度の急激な上昇が見られたことは、頻繁なパトロールが必要であることを示唆する。今回の実験の立案時には、オーストラリアの例で報告されたように(Fisk & Power 1999)一気に大量の作業量を投入するよりも、作業量を分散させ、断続的に駆除するのが有効、という結果が出るのではないかと期待したのだが、A、B両地点で駆除の効果に明確な差が認められなかった。しかし、頻繁に駆除を行う体制の必要性は明らかになった。

また、オニヒトデ個体群密度の測定方法についても改善の余地がある。今回は50m×4mのべルトトランセクトを5本以上使用した。同様の方法はグレートバリアーリーフで使用している(20m×2m×10本、50m×20m×5本、Zann & Weaver 1988;50m×5m×2本、Engelhardt, Miller, Lassig, Sweatman & Bass)。Zann & Weaver(1988)は、オニヒトデの分布がパッチ状であるためにトランセクト間のばらつきが非常大きいためにオニヒトデ密度の変化により駆除の効果を評価するのが容易ではないとしている。また、マンタ法は高密度のオニヒトデ個体群の調査には適しているが低密度の場合は多くのオニヒトデは物陰に隠れていることが多いため測定誤差が大きくなると考えられる(Zann & Weaver 1988)。調査の精度を向上させるための方法論の開発も重要な課題である。

 

知見をより一般化するには

まず、1998年夏のサンゴの白化以降、それ以前に報告されていたようなオニヒトデの大量発生はほとんどのサンゴ礁で終焉したようである。そのため、駆除するにあたいするような(例えば10匹/ha、海中公園センター1984)オニヒトデ個体群は少なくなった。沖縄本島沿岸で唯一見つけられた個体群は、残波岬周辺のものであった。このように対集区域が限定されたため、サンゴ被度、オニヒトデ密度などの条件が同じ地点を複数設定するのが困難であった。さらに、残波岬は、冬の季節風が吹き始めると潜水作業をするだけでなく海域に接近することさえ困難になる場所である。このような状況で、駆除効果を案験的に調べるというのは容易ではない。

より効果的な駆除を実施するためには、駆除の効果についての知見を一般化する必要がある。そのためには、有効なデータを集績する必要がある。たとえば今回の実験では、一旦大量に駆除努力量を投入した区域(A)ではオニヒトデの個体群密度は駆除後1ヶ月以上にわたり低く維持された結果を示したが、実験区に繰り返しがないために、このような得られた知見を一般化することには危険が伴う。しかも、今回の結果は98年の白化によるサンゴの大量斃死の影響を大きく受けている可能性がある。何らかの方法で効率的にデータを蓄積する方途が望まれる。

 

 

 

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