実習を行うことによって、確かに教科書を読むこと以上に得られる知識は多い。しかし、それ以上に得られることで、医師としての死生観を養う事が出来ると云うことであった。生死の危険にさらされることのない平和な世の中に暮らし、知識を詰め込むだけの日々に追われ生きている私達が、実習において生々しいほどの「死」と何十時間も対峙する。時として、実習の内容があまりにも非人道的な事と思える内容であったりもする。しかし、そうした過程を経て得る経験や知識だからこそ、より生を大切にしようと思い、且つ、より死を大事にしようと思う気持ちが生まれるのであると思う。これは決して本やテレビを通じて得られることではない。言葉で理解していたとしても、実際にやってみて理解する事と同じものを理解しているわけではない。それを痛感した。父や、献体して下さったこの御遺体の方も、解剖学実習を経験し、そこで得られる様々な心の過程を経て医師になったのであろう。そしてそれをわかっていたからこそ、私達の為に献体をなさったと思われる。実習を終えた私達は、それで得られた知識や経験を生かし、また献体して下さった方達の気持ちを忘れることなく、医師になると云うことの自覚を持ち続けなければならない。
私達の為に、知識のみならず、こうした考えに気づくチャンスを与えて下さった献体して下さったS様とそのご遺族の方々、並びに他の献体者とそのご遺族の方々に心からの感謝と、心からのご冥福をお祈りいたします。