日本財団 図書館


解剖実習を経て

森桂

 

初めて御遺体に接し解剖を進めていく中で、私の中ではある想いが強まっていくばかりでした。それは、「人体」というものが混沌のうちに存在すること。その混沌とした組織の組み合わせが繋がって、全体を一とした調和が保たれていること、そのような人体に、現在生理学で学んでいるような循環、呼吸、神経活動などが同時進行することで、血が通い動きが生じ、感覚が認識され、情緒が発せられるということに、御遺体を前にして感動すら覚えました。どの組織一つ欠けても「人体」は成り立たない。という驚きは間違いであって、今存在する人体というのはあくまで"結果"であり、偶然(か必然か)の変異の流れの端に、私達の「人体」があるのでしょう。そのように人体を空間的時間的に、部分から全体へ、また全体から部分へ科学的、論理的に見る姿勢というものに気づいたのは、私にとって意外な喜びでした。このような体験の機会を与えて下さった優しさある御遺体の方々、また御指導下さる先生方に尊敬、そして心からの感謝を感じずにはいられません。

解剖学も終わりに近づきましたが、「人体」の巧妙さ、複雑さ、そのような様相からにじみ出る美しさに対する想いはさらに深くなりました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION