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そのため実習が始まる前から、図譜を買って、実習書と見比べて、何だかもう医者になったかのような気分で意気揚々としてその日を待っていました。

それから数日たってとうとうその日がきました。その日は午前中の講義の間も、何だか落ちつかず、頭の中で、あれやこれやと想いを馳せていました。講義も終わり食事もそこそこにして、服を着がえ真白な白衣に身を包み、実習室に入った。実習室はとても無機質で、少しゾッとしたのですが、逆にその威圧感のある雰囲気のお陰で身が引き締まる感じもしました。そしてしばらくして安置室から御遺体をお運びしました。全員が終わると黙祷をし、初めての解剖にとりかかりました。私の家族に医療関係者が全くいなかったので、果たしてこの私にちゃんと務まるのだろうかと不安だったんですが、初めて御遺体を拝見した時、献体していただいて本当に有難うございますという感謝の気持ちでいっぱいになりました。それと同時にこの気持ちを忘れてはいけないと自分に言いきかせました。

解剖は皮切から始まったのですが、今まで、実習書などを読んでこんな感じだろうかなと想像していたのとはかなり異なっていていきなりあたふたしていました。班の仲間も同じ様子で、先生に教えていただくまで結局あれやこれやと相談していただけでした。しかし、初めての解剖実習で、まだ何もしていないのにも拘らず、私は人体の魅力に非常に魅きつけられました。

 

 

 

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