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私には解剖学実習にあたり特別な思いがありました。それは十数年前、祖父が献体をしたということがあったからです。そのため、解剖台に横たわる目の前の御遺体と祖父とが重なって戸惑うこともしばしばありました。解剖されている祖父の姿が思い浮かび、何度も押しつぶされそうにもなりました。解剖を通して学んでいかなくてはならない医学生としての自分と祖父を思う遺族としての自分との間で葛藤の日々でした。

祖父のこともあり、私は少々ではありますが、御遺族の方々の気持ちが分かるつもりです。いくら医学のため、故人本人の希望とはいえ、自分にとって大切な人の体が傷つけられてしまうのです。故人の献体に承諾することは非常に辛い決断であったことと思います。私自身、祖父の献体の承諾には関わっていませんが、解剖台に横たわり体にメスが入れられていく姿を考えると、何ともいえず辛いというのが本心です。この思いは解剖を行っていた最中も、終えた今でも変わりませんし、そしてこれからも変わることはないと思います。

結局、解剖を終えた現在でも自分の中の葛藤は消えません。押しつぶされてしまいそうにもなります。しかしそのような苦しいことばかりではありません。解剖学実習を通して多くのことを得ました。医学的な知識だけではありません。本当の意味での「学ぶ」ということを知りました。実習をやり遂げたことによる自信、医学生としての自覚も得ました。全てを含め、本当に貴重な体験をしたと思ってます。

最後になりましたが、強い意志により献体して下さった方々、献体に御理解して下さった遺族の方々に心から感謝します。ありがとうございました。

 

 

 

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