医者(この場合は医学生)は患者(この場合はご遺体)と対面する時、生命の尊厳とか医の倫理とかを深く念頭に置いた上で、冷静に科学的に対処しなければならない。ただ感情的にでもなく、ただ科学的にでもなく、相反する両方の考え方のバランスをとって。自分の心にも両方の考え方は備わっていたが、同時に二つの考え方をすることができないでいるのだ。いくら後で考え直してみても、その場では機械的に接してしまっては、それは医者ではなく冷徹な科学者でしかないのだ。結局、このことを克服することは今回の実習ではかなわなかったが、いつか必ず直さなければならないことだと思うし、このことを自覚させていただけたことに、私はご遺体に深く感謝している。
解剖学実習を終えて
田中悠子
「今日この場に来られたことに、今日ここまで導いて下さった全ての方々に、また、ここに献体して下さった方に、全ての方に感謝致します。」
私は解剖実習の間、毎日このように黙祷した。ご遺体に向かう時は常にこの思いである。
「ご遺体は最良の教師である」この言葉は、まさにその通りであった。ご遺体からは本当に色々なことを教えて頂いた。解剖学的なことももちろんであるが、その他にも様々なことを教えて頂いた。