献体された方々のお気持ちにお答えして
上里彰仁
解剖学実習は私が最も心待ちにしていたものだった。医学部の実習の中でそれは最も「神聖な」もののような感じがしたからである。
心の準備が充分でないまま、かけられていたシートがはずされ御遺体に対面したときは、いったいこの女性は生前にどのようなものの考え方をされ、私達医学生に献体しようと思われたのか、と様々な考えが頭の中を駆け巡り、「最大限の努力と集中をもって、最大限のことを学びとらせていただこう」と心に誓ったものだった。
解剖を進めて行くうちに、不思議にもこの女性がどういう考え方をされていたのかわかってきた気がした。胃の全摘手術を受けていたことがわかったが、外見は非常に健康そうに見えた。手術が大成功だったと思われた。また、眼球には人工レンズが見つかった。つまり、この方は現代医学の恩恵を大きく受けたため、医学や医療者に信頼を寄せ、それだけに我々医学生に対する期待も大きかったのではないかと思う。私もますます身が引き締まる思いであった。
解剖がすべて終わったあとで感謝の献花をしようと実習室に戻ったときに、たまたまこの女性のお名前やお歳などを知ることができた。
