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また、私は四才頃に祖母を亡くして以来ご遺体を目の前にするという事がなかったのでご遺体を前にして今日からメスを握るんだと思うと胸の高まりが止みませんでした。

実習は、まず先生方のお話、白菊会の会長さんのお話、そしてビデオを通しての献体なさる方々のお話を聞きました。献体を決意なさった人々の言葉の中で最も印象深く心に残ったのは「死んでからもお役に立ちたい」でした。医学を学ぼうとしている私達のために、また、これからの世の中を生きていく人達のために少しでもお役に立てたらと自分の身体を提供してくれるというその心は本当にすばらしいものだと思います。感謝しても感謝しきれない位です。献体をなさった人々の意に少しでも添えるように最後まで一生懸命に学ぼうと改めて思いました。

遂に四時限目、ご遺体を前にする時がやってきました。様々な思いを胸にしながらのご遺体との対面でした。私の班はおじいさんで、長い間寝たきりの生活を送っていたのでしょうか、体のあちこちに床ずれが見られました。おじいさんの顔を見ていると、一体どのような人生が繰り広げられてきたのか、どんなご家族に囲まれて生きてきたのか、などといった思いが頭の中に巡らされるのと同時に、これから三ヶ月間お互いに辛いかもしれないが共にがんばろうと心の中で話しかけずにはいられませんでした。

 

 

 

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