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−3)結果

検討結果の一例を図2.3.2.5に示す。IGSの設置は中破、大破といった重大な影響を引き下げる効果があり、全シーケンスの合計に関しては、中破、大破の発生確率を1オーダー程度低下させている。「タンク内における爆発混合気の形成シナリオ」については、中破、大破の発生確率を2オーダー程度低下させている。IGSは初期事象であるタンク内の爆発混合気の形成を抑制するため、災害事象の発生確率を一律に低減することになる。タンク内での火災爆発の可能性に対して、もっとも上流側で抑制しており、効果の高い安全対策である。専門家に対するヒアリングを実施した際に、IGSはタンクの延焼防止に効果があるとのコメントがあったが、今回は考慮していない。延焼防止効果があれば、甲板上の火災に関しても大被害の可能性を低減する結果が出ると思われる。

(8)意思決定のための勧告

今回のリスク評価結果から、IGSはタンク内での爆発火災の発生を抑制し、原油タンカーの火災爆発全体のリスクを大きく低減しており、有効な対策と思われる。但し、事故事例や故障/損傷統計等の情報が不足しているため、専門家の定性的な意見を参考に決めた部分が多く、FSAの試適用でなく実用的な検討を行うのであれば、今後、事故シナリオやETの分岐確率についてより多くの専門家の意見を反映し、消火設備の信頼性解析の実施により評価結果の信頼性を向上させる必要がある。また、検討結果の信頼性を向上させるには、用いたデータ及び結果の不確実さを定量化する方法の採用や感度解析等が考えられる。

(9)まとめ

−1)確率論的安全評価に関する考察

油タンカーの火災・爆発事故は、SOLASの1981年改正以来、殆ど見られない。改正以来20年近くがたち、専門家に対するヒアリングやアンケート調査を実施しても、改正前の実状を把握することは困難であった。また、改正後も大事故は殆どないこと、調査した範囲では事故に至らない個別機器の損傷やヒヤリハット情報は系統的には収集されていなかったことの為に、リスク解析に必要となるバルブやIGS装置の破壊確率等の統計/確率情報が得ることが困難であった。今回は、専門家に対するヒアリングやアンケート調査から定性的な情報を得て、リスク解析担当者が出来るだけ系統的な方法で確率値を与えることで解析を実施した。船舶分野で確率論的安全評価手法が実用的なツールとなるには、大事故以外の細かなデータの収集システムの構築を地道に行うことに加え、専門家が経験的に持っている定性的な情報から定量的な情報を引き出す、関連業界の中でコンセンサスの得られる手法の開発が望まれる。

 

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図2.3.2.5 全シナリオの合計リスクに対するリスクオプションの効果

−2)IMOのFSA暫定指針に関する考察

ハザードの定義はFSAの暫定指針に明確に記述されているが、付録に書かれている例は船員の海中転落、可燃性物質から落雷というように多種多様である。既存のFSA試適用報告を見ても、事故副分類をもハザードとして扱っているものもあり、その解釈に大きなばらつきがある。従って、解釈にぶれが生じないような適切なガイドラインの開発が望まれる。

また、ステップ1ではハザードの順位付け(Ranking of Hazard)を行うことになっているが、実際にステップ2のリスク評価以降を検討する際には、それは必ずしも必要とはされない。また、他の試適用報告の中ではハザードの順位付けの方法には、Risk Matrixを応用したような方法が試みられているが、説得力のある方法とは言い難い。従って、ステップ1ではハザードではなく、リスク評価を行うべき事故シナリオの順位付けを行うことが実際上は必要である。

 

 

 

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