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2. 研究の経緯

2.1 IMOにおけるFSAの動向と我が国の対応

2.1.1 発端

1988年に起こったPiper Alphaプラットフォームの爆発炎上事故に関するロード・カーレンの事故調査報告(1)を受けて、英国の海洋開発分野では、海洋構造物の安全性を照査するのに確率論的な安全性評価手法が使われることとなった。これは、個々の海上構造物について安全目標を定め、この構造物が安全目標を満足しているか、審査するもので、一般にSafety Caseと呼ばれている。この手法は、英国と北海油田を共有しているノルウェー及びオランダにおいても導入された。一方、船舶の分野では、英国沿岸で起こったタンカーBraer号事故調査報告(2)により、1992年に英国上院の特別委員会でFSAを一般商船に対して導入する考え(勧告)が出された。英国はこの勧告をIMOへ持ち込む方針を定めた。

 

2.1.2 MSC62から64まで

1993年には、英国からIMOのMSCにFSA導入の案が提出され(MSC62/24/3)、FSAを討議するためのCorrespondence Group(以下CGと記す)が設置された。このCGは、MSC63(1994年5月)及びMSC64(1994年12月)に報告書を提出し(MSC63/22/1、MSC64/21/1)、FSAの骨子及び利用方法を提案した。MSC64に対しては、我が国から文書MSC64/INF.2(3)を提出し、我が国においても、船舶の確率論的安全評価方法に関する長期調査研究を開始することを表明し、計画の内容を紹介した。MSC64はこれらの提出文書を審議し、CGを継続して以下の点を検討してMSC65に報告するよう、要請した。

(1) FSAの概念と手法の詳細

(2) FSAをIMOにおいて以下に使用するかについての提案

 

2.1.3 MSC65(1995年5月9日〜17日)

1995年には、CGが第3版レポート(MSC65/24/8)を提出した。英国は文書MSC65/24/2及びMSC65/INF.13を提出し、IMOにおけるFSAの使用を効果的かつ統一的に行うために、IMO内にFSAアドバイサリー・グループを設置すること、並びに小委員会及び作業部会(WG)はリスクを制御する方策を探るためにFSAを活用することを提案した。MSC65は、当面はFSAを比較のためのツールとして使用することとした。またMSC65はCGを継続することとし、CGにこれらの英国提案を検討すること及びFSAの使用に関する指針案を作成することを指示した。

1995年のMSC65の直後に、IMO関係者にFSAを理解してもらう事を目的に、英国のMSA(Marine Safety Agency、現在のMCA(Maritime and Goastguard Agency))の主催で"Seminar on Formal Safety Assessment"が開かれた。

 

2.1.4 MSC66(1996年5月28日〜6月6日)

MSC66へは、我が国からMSC6/INF.28(4)を提出し、リスクの定量化手法、考えるべきハザード、火災と浸水に対する解析手法、及び避難解析手法の研究の現状を紹介した。

CGは報告書(MSC66/14/1)を提出した。MSC66本会議はこの報告書を検討し、FSAのWGを設置して、FSAのIMOにおける規則作成での使用に関する指針案の作成、及び指針案作成作業のタイムスケジュールを作成するよう指示した。WGの報告を受けて本会議は、MSC68を当指針完成の目標期日とすること、WGで検討した指針案の内容についてはCGを設置してさらに検討しMSC67に報告すること、防火小委員会(FP)が作業しているSLAS/II−2章の総合見直しの中でFSAの試適用を検討することをFPに要請することを決定した。FSAの使い方については、以下の可能性を抽出した。

 

 

 

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