(3) マラッカ・シンガポール海峡の通航制度
シンガポール、マレーシア及びインドネシアの三カ国の水域に存在するマラッカ・シンガポール海峡については、現在、船舶の航行の安全及び海洋環境の保護のために、分離通航方式及び航路指定方式にくわえて、強制的な船舶通報制度が実施されている。特に、通航船舶のうち、300G/T以上、長さ50メートル以上その他一定の船舶は、船舶通報制度(STRAITREP)への参加を義務づけられており、同海峡の所定の位置で区画毎に定められたVHFチャンネルによる通報が行われている(44)。
(図11)マラッカ・シンガポール海峡の通航と船舶通報制度
4. 群島水域における通航権
(1) 群島をめぐる群島国、群島基線、群島水域、群島航路帯などの諸制度は、第三次国連海洋法会議で審議され、1982年国連海洋法条約の規定に初めて盛り込まれた。同条約の規定により、これら群島関係制度の一応の枠組みは設定されたということができるにしても、個々の群島水域での実施とその制度、とりわけ外国船舶の通航のしくみについてはそれ以後のフォローアップが必要であった(45)。このような中で、インドネシアが群島航路帯の設定に向けて準備を進め、初めての航路帯が設定されようとしているため、これについて触れておくことにする。
(2) 群島国は、自国の群島水域及びこれに接続する領海において、公海(EEZ)と公海(EEZ)を結ぶ航路帯(archipelagic sea lanes)を指定することができる(国連海洋法条約第53条(1)及び(3))。この群島航路帯の指定は、権限ある国際機関に提案し、採択されることが必要であるから(国連海洋法条約第53条(9))、インドネシアは、1996年12月、IMOの海上安全委員会(MSC 67)に、自国の群島水域における航路帯(sea lanes)及び航空路(air routes)の指定を提案した(30Aug.1996, MSC 67/7/2)。群島航路帯として、インドネシアの群島水域を南北に通過する3ルートを提案するものであったが、その考慮事項としては、1]国際運送及び航空の必要性、2]水路学上及び海域自然上の条件、3]沿岸及び島の間の航行と上空飛行の程度、4]漁業の操業実態、5]石油・ガスの探査開発の実態、6]海底ケーブル・パイプラインを含む海洋構築物の存在、7]海洋環境及び海洋公園保護の必要性、8]沿岸・海洋観光の発展、9]インドネシアの平和、安定及び安全、10]航行及び上空飛行を監視する法執行組織の能力であり、爆発物投棄海域、軍事演習海域、漁業実態と操業海域、沖合油田区域、海底ケーブル・パイプライン、国立公園と保存海域、内航旅客船航行ルート、商船ルート、海域文化財、航空ルートの図面が添付されていた。