日本財団 図書館


ただ列挙事項のなかには、「通航に直接の関係を有しないその他の活動」という範囲が明確でないものも含まれており(19条2項(1))、これも「みなし」の場合の限定列挙であるとすると、船舶の活動に着目して有害性を判断する限りは、沿岸国としては19条1項で有害性の立証責任を負うよりは、19条2項(1)によって有害とみなす方が実際的であるということになる(10)。19条2項を有害性の包括列挙であると解釈する実益は、第19条1項のもとで船種別・積み荷別の規制を排除することにあるといえよう。そこで第二に、19条1項の規定に実際的な意味を与えようとすれば、船種別・積み荷別の規制、あるいは船舶の活動(activity)そのものではなく通航の態様(manner)による規制の可能性をこれに読み込めるかどうかが問題となる。海洋法条約では、タンカーや原子力船および核物質またはその他の本質的に危険もしくは有害な物質を運搬する船舶であっても無害通航権を持つことを前提にする規定を設けている(22条、23条)から、これらについては船種や積み荷を理由に通航の有害性を主張することはできないことは明らかである。船種や積み荷による規制が可能であるためには、特定の船舶の運航あるいは物品の運送が、一般国際法の他の一次規範によって違法とされていることが必要であろう(11)。そのような一次規範が存在しないのであれば、船種別・積み荷別の規制は可能でない。しかし「通航の態様」を、単に外部的な船舶の活動そのものだけでなく、全体的な事実関係のなかで総合的に判断することが認められるのであれば、外国船舶が領海内に所在することそのものを有害と判断する余地はなお残されることとなる(12)。そういうことが解釈的にいいうるとすれば、先に一つの例としてあげたような場合、つまり高度の危険または有害な物質あるいは大量の油を積載する船舶が海難事故に遭遇し、船舶構造に欠陥を生じその堪航性に疑義がある場合や、いわゆる構造欠陥船舶などの通航は、19条2項に列挙されるような行動をとっていない場合でも、なお沿岸国がこれを有害と判断して、通航を否認する可能性があるということになろう。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION