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山口教授も、「犯罪は、構成要件該当事実全体によって成立するのであって、行為だけが犯罪ではなく、また結果だけが犯罪であるわけではない。この意味で、犯罪は行為から構成要件的結果発生に至る時間的・場所的広がりをもって犯されるのである。こうした認識に立つと、構成要件該当事実の中から『犯罪地』の決定基準を一元的に選び出そうとすることは、決して論理必然的なことではないし、また、そうしなければならない『理論的根拠』も明らかではない」と主張されている(45)。実質的結果説は、構成要件該当事実が全く国内で発生していないのに法益侵害の危険性を根拠に国内犯の成立を認める場合があるが、それは現行刑法の趣旨を逸脱した立法論にすぎないように思われる。

このように、結果無価値論の立場から実質的結果説が論理必然的に導き出せるわけではないが、かといって遍在説が当然に基礎づけられるわけでもない。問題の本質は、国外で行われた行為の実質的影響が国内に及ぶ場合をどこまで属地主義でカバーできるかにあり、それは、違法性の本質論によってのみ決定される性質のものではなく、むしろ、国家管轄権の適用の問題として、領域主権に基づく場所的管轄をどこまで認め得るかの問題として解決されなければならない。

結局、この問題は、それぞれの国家と対象事項との関連性の強さを他国の管轄権に有効に対抗できるかという問題であり、現在の国際社会において、行為と結果のいずれか一方が領域内に存在すれば自国の刑法の適用もありうるとする遍在説の立場が容認されている。ただ、そこでの結果概念は、構成要件該当結果の意味で理解する本来の結果説(形式的結果説)を基本とすべきであり、これを実質的のとらえる実質的結果説を全面的に採用することが、国家管轄権の一方的・主観的基準として他国の管轄権に有効に対抗できるかはなお慎重に検討されなければならない。

 

(2) 海上における越境犯罪

以上の検討から、犯罪地の決定の基準としては遍在説の立場が基本的に支持し得ると思われ、ただ、その適用による不当な結論は、構成要件解釈による限定などの方法によって回避すべきであるように思われる(46)。そこで、最後に、海上における越境犯罪について事例ごとに遍在説の適用を検討しておくことにしたい。

 

 

 

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