次に、戦前の我が国の慣行について、「帝国軍艦ガ平時公海ニ於イテ外国船舶ニ権力ヲ加フルノ必要アル場合ニハ、概ネ海戦法規第百三十六条乃至第百五十七条、同法規第百六十条乃至第百八十二条竝ニ艦船職員服務規定第百八十二条等ニ準ズベキモノトス。」(15) とし、海戦法規第141条は、「艦長ハ先ツ信号旗又ハ汽笛ヲ以テ臨検ヲ行フへキ意思ヲ当該船舶ニ通スヘシ但シ夜間ニ在リテハ軍艦旗ノ上ニ白燈ヲ掲ケテ信号旗ニ依ル信号ニ代フヘシ。天候不良ノ為前項ノ手段ニ依リ臨検ノ意思ヲ通スルコト能ハサルトキ又ハ当該船舶ニ於テ前項ノ信号ニ応セサルトキハ空砲二発ヲ連発シ尚必要アルトキハ其ノ船首ノ前方ニ向ケ実弾ヲ発シテ停船ヲ命スヘシ。
前項ノ警告ヲ為シタルモ尚停船ノ命ニ応セサルトキハ先ツ船舶の檣桁ヲ砲撃シ最後ニ其ノ船体ニ及ホスヘシ。」とし、その註で、「右ノ方法ハ、各国ニ通ズル慣行ニシテ、平時海上ニ於テ船舶ヲ臨検スル場合ニモ之ニ準ズベキモノトス。」として、国際慣行であると解説していた(16)。
4. 内外における武器の使用事例について
(1) 国際法上、海上での武器の使用が問題となった事例
イ) アイムアローン号事件
アイムアローン号(I'm Alone)は、カナダ、ノバスコシアのLunenburgに登録された英国籍のスクーナー(ラム酒運搬用帆船)であった。合衆国(米国)税関は、同船を米国領域への酒類の搬入禁止を定めた禁酒法(the Prohibition Act・1919年に米国は禁酒法を制定して、酒類の製造販売輸送及び輸入を禁止した。同法が施行されると、海上からの密輸が激増したので、1922年の関税法で、沿岸から12海里までの海域に入るすべての船舶を臨検、捜査することを定めた。英国は、公海での外国船の捜査に抗議し、交渉の結果、1924年に英米酒類取締条約が締結された。