日本財団 図書館


海上警察機関による実力行使

 

海上保安大学校教授 廣瀬肇

 

1. 海上警察機関による実力行使

 

海上警察機関による実力行使、それも武器の使用という究極の手段を行使するということに関連し、そのことは条約上明確な規定が存在するものではないけれども、過去の多くの事件を前例として、国際的に認められた強制力の行使(武器の使用)の方法と程度について、一種の国際慣習としてのルールが形成されているように思われる。しかしながら、国際法的に認められるというだけではなく、我が国の海上警察機関が実力を行使する場合には、原則として国内法の根拠もまた必要である(1)。また、警察機関であるから、その所掌事務あるいは任務は、犯罪の予防、鎮圧、犯人逮捕、犯罪捜査であって、極く制限された例外を除いて、人を殺傷したり、船舶を撃沈することが目的では決してない。

さて、折しも、平成11年3月23日に発生した、いわゆる能登半島沖不審船事件に端を発して、武器の使用に関する関心がたかまっている。そこで、武器の使用が問題となった国際事例、我が国において武器を使用した事例について検討し、それらの事実を踏まえた上で、海上警察機関による武器の使用の問題を展望してみたい。現行法の枠内で考察する限り、海上自衛隊による海上警備行動は、海上警察力の補完としての機能を持つものであり(2)、その際の海上自衛官の職務の執行について、警察官職務執行法(以下警職法と略)が準用される(自衛隊法第93条)から、海上警察行動における武器の使用について論じる限り、警職法第7条の準用について、海上保安庁の場合と差があるものではなく、全く同じ法理、原則で律せれるものであると考えられる(3)。海上警察機関による武器使用の問題状況を突然表面化させたのは、先般の不審船事件であったから、先ず事件の概略と、そこで指摘された武器使用に関する問題点について述べてみたい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION