はしがき
1. 私共の「海洋法調査研究委員会」は、平成11年度から新たに「周辺諸国との新秩序形成に関する調査研究」に従事することとなりました。
国連海洋法条約が成立し正式に発効して以来すでに多くの年月を経て、同条約の解釈と適用など、具体的な実施の実例も集積しました。それと共に海上保安の分野でも、法執行措置をめぐり他国との間の紛争事例が増大しております。とりわけこれら緊急の事態にどのように的確に対処するか、他国がとる措置との比較も含め「海上保安国際紛争事例の研究」を進めることが、周辺諸国との間に新しい海洋秩序を形成するための長期的な基盤を整えるうえでも不可欠と考えられます。
2. 海上保安に関する国際紛争としては、沿岸国が外国の船舶・乗組員に対して行う関係国内法令の執行に起因するものが少なくありません。具体的には、漁業資源の保存・採取をはじめ海洋汚染の防止、拿捕・抑留中の船舶、乗組員の速やかな釈放の条件となる保証金(ボンド)制度、密航・密入国の管理や規制薬物等の密輸入の取締りなど、関係国内法令の執行に伴うものであります。これらの国内法令の執行が、海洋法条約の基準や条件に適合するかどうかをめぐって、沿岸国と被疑船舶の旗国との間で判断が対立し紛争に突入するのであります。
周知のように、わが国も近年これらの国際紛争にまきこまれ、その解決のための外交交渉や国内・国際裁判の当事者として立向う局面も増えております。このような状況のもとでは、ここ最近数年間に諸国が関係した類似の紛争事例について、条約と国内法令の解釈・適用ぶりを比較検討することが、実務上も理論上も重要となり、この点は繰返すまでもありません。
3. このため当委員会は、国際法、刑事法、行政法を専門とする学者側委員と海上保安庁側委員をもって構成され、年間8回にわたる研究会を開催いたしました。