この例はエタノールの1%添加区の結果にみられる。このように、細胞数の変化をよく観察することにより、細胞に対する化学物質の影響をきめ細かく評価できる可能性が示された。
提示の順序が逆になったが、細胞増殖に対する阻害活性を分光学的に測定する場合、細胞数の計数値と吸光度との相関を調べて検量線を書く必要がある。3種類の細胞について検量線の代表例を図10〜図12に示す。そして当然のことであるが、この検量線の作製は測定するごとに行わなければならない。方法の項目でも述べたように、今回の研究では細胞の継代数と状態をなるべく同じすることに配慮したので測定日ごとの違いはほとんど認められなかった。また、検量線の作製を行うことの利点はもし値が大きく異なった場合、それは細胞の状態や測定系の何かが正常ではないことを示すものであり、実験の精度を検証できる点である。
添加濃度を変えて検討した意味は、実際的な測定系として海水試料から不特定の化学物質を濃縮した画分を得た場合、培養細胞に対してどの程度の濃度になるように加えれば検出できるかを考えているからである。すなわち、物質が不特定であるばかりではなく、含まれている量も未知の状態で測定を始めることになるので、最初から添加量が少ないあるいは濃縮倍率が低いと検出限界以下となって評価できない可能性を危倶したためである。測定を行う場合は、図2の写真の例でも示したように濃縮画分の希釈系列を作製して各々を添加することにより、濃縮倍率という暖昧な表現ではあるが、定量性を持たせることができる。従って、初濃度はなるべく濃い状態で始めるのがよいのではないかと考えた。しかし、後述するように方法論的にみて今回行った以上に濃縮倍率を高めることには限界があるので、添加量を多くすることで濃い状態に作ろうと試みたのである。その結果、添加濃度10%では溶出溶媒自身の毒性・障害性が強すぎて溶出された化学物質の影響を検定できないことが明らかとなった。つまり溶出溶媒そのものが細胞に対して影響を与えるものであるから添加量はより少ない方が望ましいということである。しかし、添加量が少なすぎて検出限界以下になる可能性をどうしても拭えないので、今回は1%添加ということに定めた。以下の実験は原則としてすべて添加濃度1%で行った。