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事業の実施内容

 

1. 事業の目的―本事業の遂行に至った背景を含めて―

 

近年、環境ホルモンあるいは内分泌撹乱物質と呼ばれる化学物質に代表される、生物に対して非常に多様でかつ深刻な影響を与える物質による環境への汚染が問題となっている。これらの物質の影響は人類のみならず、その他の陸上動物、そして海洋生物に対する影響が懸念される。これらの物質による汚染は、非常に多様な成分が影響要因となり得ること、微量でも作用し得ること、またその作用も多様であることが特徴である。先に述べた内分泌撹乱化学物質は生体に取り込まれた後、動物のホルモンと類似した作用を示して生物の持つ本来の内分泌系を乱すことにより、結果として生殖や行動に異常を生じさせると考えられている。このような作用を有する物質に限っても数多く存在すると考えられているが、一方生物に対する影響はこの内分泌異常だけに留まらない。生物に影響を与える物質としては殺細胞性を示す物質、細胞分裂阻害活性、あるいは変異原性を有する物質等も含まれる。そしてそれらの作用を示す物質は数が非常に多く種類も多岐に渡るため、その全体像を把握することは現状では困難である。さらに、これらの化学物質には生物濃縮されるものがある。すなわち、環境中の化学物質の濃度がたとえわずかであっても濃縮された結果、影響をおよぼすレベルに達することは十分に考えられる。そして、このことは化学物質を濃縮した生物自身に大きな影響を与えるだけでなく、それらの生物を餌とする高位の捕食者にも障害をもたらす可能性があり問題は深刻である。

水圏に生息する生物を扱う立場としてより深く考慮しなければならないのは、環境中に放出されたこれらの化学物質はいずれは水界に、そして多くは海に到達する点である。特に沿岸域は海水中に放出された物質だけでなく、陸水を通じて流入する陸圏に放出された物質の影響も受ける可能性を考えなければならないであろう。このことは“沿岸域に生息する生物の健康に十分な配慮をした沿岸域の環境保全”の在り方を模索する本研究所のたちばとしては重大な問題であった。

 

 

 

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