日本財団 図書館


こうした事態の進行を看過すれば種の存続に対して影響をおよぼす可能性も考えられます。さらに大きな問題は内分泌撹乱化学物質だけでも多種類の物質が存在すること、そしてそれ以上に様々な作用をおよぼすと考えられる物質があると考えられることです。これらの多くは農薬、界面活性剤、防腐剤などに含まれているといわれます。こうした物質が人間生活において果たしている大きな役割を否定することはもとより考えておりません。しかし、私が問題視するのはこれらの物質における本来の目的以外の作用についてであり、もしその可能性があるのならば十分に調査を行い、その影響をきちんと認識した上で使用することが緊要であると思います。とりわけ、私が懸念するのは環境中に放出された物質は最終的に水界に到達することです。特に、沿岸域は海中に放出されたものと陸圏に放出されたものの両方の影響を受けることが考えられます。カキ類のような固着生活者をはじめとして、沿岸域の動物には移動能力の小さいものが少なくありません。従って、何か影響をおよぼすものがあっても逃れられないのです。また本来の生息域を変えて生物は健全に生きられるものではないと思います。“そこに生息する生物の健康にも配慮した環境の保全”を考えるのならば、沿岸域の現状をきちんと把握した上で問題点を指摘し、影響をおよぼす物質を環境中に出さないようにすることを訴えていくことが重要であると思われます。

以上のような見地から、本年度も日本財団の補助を仰ぎ、海水に混合する物質の濃縮毒性試験法に関する調査研究を実施することと致しました。すでに作用機序が明らかになっている化学物質については、厳密な分析的手法を用いて生物の特定の機能に対する影響を把握することが肝要であると思われます。しかし、現時点ではどのような機構で生体に影響をおよぼすのか明確ではない物質も多いとされています。そこで、本研究所の取り組み方としては特定の物質のみに的を絞るのではなく、「海水に懸濁する物質の海洋生物に対する影響を総合的に判定できる簡便で高感度な手法」を確立して、実際に沿岸海水の測定を行い、沿岸域の現状を把握する一助にしたいと思っています。機会を捉えて専門家のお話も伺って参考としながら、目標に近づけるべく努力をして参りましたが、不十分な点は多々あると存じます。まずは本報告書を関係各位に御高覧を賜り、御叱正・御批判をいただければ幸甚に存じます。

 

平成12年3月

財団法人 かき研究所

理事長 早川二郎

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION