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そして、その変動は水温に代表される環境要因の変化の影響を受けた結果、起こることも明らかにしました。すなわちここで、カキの生体防御能力の発現と環境要因の変化との間に関係があることを見い出すことができ、生体防御能力を指標として選択したことは誤りではなかったと思います。しかし、主題である環境評価法の確立については、健康度と生体防御能力の間との定式化に暖昧さがあり、定量的な結果が得られた生体防御能力に対して、健康度は定量的に判定することができないばかりか、定性的な評価としても厳密さを欠くものでした。つまり、生体防御能力が高い方がより健康だと思われる、といった漠然とした推定にしかなりませんでした。従って、環境を評価するにあたっても明確な基準となり得ず、結果は不十分さを残しました。この問題に関しては、本研究所の基礎研究事業の中で継続課題として取り組み、より有効性の高い評価法の確立を目指して研究しております。

さて、今回取り組む課題は、上記の研究を遂行する過程で考えさせられた事柄が発想の基になっております。それは、この2カ年で行った研究では沿岸生物に対して影響を与えるものとして海洋環境の変化だけを考えているけれども、それで十分なのかどうかが明らかになっているのか、その他に生物に影響を与えるような物質が沿岸水に混合しているのではないか、そのことを知った上で生物の状態を考えるべきなのではないかということでした。早速、調査研究を担当している所員に話を聞いたところ、上記の研究ではそうした物質の影響は考慮しておらず、またそれらを的確に測定する方法論を持っていないとのことでした。そこで、課題化への取り組みを始めました。

近年、環境ホルモンとも呼ばれる内分泌撹乱化学物質に代表される様々な化学物質による環境汚染の問題が大きく取り上げられています。特に内分泌撹乱化学物質は動物のホルモンと同様の作用を示し、動物が有する本来の内分泌環境を乱すため、生殖や行動に異常を生じさせると言われています。生殖に対する影響は生物個体の最も大きな役割、すなわち健全な子孫を残すこと、に対して強い障害となりかねません。

 

 

 

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