3.2.4 海洋マイクロシステムテクノロジー
(1) 概要
マイクロマシンは、一般的には、広い意味で数ミリメートル以下の機能部品からなる微小な機械として、ナノメートルオーダーのものを含めて考えられている。このようなマイクロマシンには、大きく分けて2つの分野がある。1つは、エレクトロニクスから発展してきた工学または無機的なマイクロマシン、他方は、生物の持っている機械的な仕組みであるバイオマイクロマシンである。それぞれに研究が進められている一方で、両者を統合しようという考え方も現れている。
マイクロシステムは、まだ新しい技術体系であり、マイクロシステムを用いた応用は今後の課題である。後述する国家プロジェクトである「マイクロシステム技術の技術開発」の開発コンセプトに従えば、現在は、要素技術の研究開発が終了し、システム化技術の研究開発段階にある。したがって、本節では、海洋に限らず陸上でのマイクロシステムの研究状況を概観し、その後に海洋への応用を考察する。
(2) 主要な技術の現状
1] 工学マイクロマシン
工学マイクロマシンでは、半導体の微細加工技術の進歩などに伴い、直径0.1mm以下のモーターや、ポンプ、センサーなどが開発されている。特に、シンクロトロン放射注1)で得られるX線を光源とするリソグラフィ注2)によりフォトレジスト注3)材を加工し、金型を製作し、精密成形によって、各種材料の微細部品・機器を加工するLIGA(Lithography Galvanoforming Abforming)プロセスを用いた3次元加工の技術により、立体的なマイクロマシンが作られてきている。LIGAプロセスで試作された事例を表3.2.4-1に示す。
また、1991年から2000年の10年間で、国家プロジェクトである「マイクロマシン技術の研究開発」が進行中であり、このプロジェクトでは以下め3点が研究項目として挙げられている。
注)1光速に近い速度まで加速された電子がその軌道を曲げられる時に放出される電磁波のことであり、この放射光を得るための装置をシンクロトロン加速器と呼ぶ。現在、日本では世界最大の加速器である「SPring-8」が稼働している。
注2)集積回路を製作する工程の1つで、半導体製造の際、微細な回路パターンを基板表面に光を照射し転写する技術の総称である。
注3)露光により性質が変化し、耐薬品性特に不溶性の硬膜を作る物質のこと。