2)生息場創出の考え方
天然の干潟、浅場、藻場などの生息場やそこに生息する生物相は、自然の営みのなかで長い時間をかけて形成されたものである。一方、人為的な場の創出技術はこれを短期間で形成しようとするものであるため、生息場の復元にあたっては以下の観点からの検討が重要と考えられる。
1]生息場内部の環境条件の設定
生物が生息し得る場とするためには、創出する場の環境条件を、期待する生物の生息に適した条件に設定することが重要である。
藻場の場合、海藻草類の生育には一定の光量が必要なため、水深の調整などによってこれを確保することが重要である。干潟の場合は、底生生物は種によって生息に適した底質が異なっているため、特定の種の生息を期待する場合には、その種に適した底質を検討する必要がある。自然条件における底質は、流動環境やその他の環境条件との関係の中で決定される。そのため、底質を決定づける他の要因についても検討が必要である。
2]外的インパクトの制御
生息場内部の条件が適当であっても、例えば周辺から貧酸素水塊が進入するような場合には、高い生物機能を期待することは難しい。その場合には、貧酸素水塊の発生域に覆砂する、潜堤を設置して水塊の進入を防ぐ等の工夫により、外的インパクトを制御することが重要である。
3]周辺環境、他の生息場との関連
創出した場の生物機能はその場所だけで成立するものではなく、周辺環境や他の生息場とのつながりの中で成り立っている。したがって、計画策定にあたっては、周辺環境の特性や、他の生息場との間の生物の行き来を踏まえた検討が重要である。特に、魚類や鳥類のように移動力のある生物は、周辺の生息場と行き来することによって行動範囲を広げ、安定して生息することができる。これらの生息場については、移動距離を考慮した検討が必要である。
4]人間活動の活用
漁業活動は生息場における生物生産と相互に関わっており、生産された生物体を陸域に取り上げる有用な手段でもある。また、生息場の機能を最大限に引き出し、維持するためには適切な管理が必要と考えられるが、環境教育・学習にこれを活用していく方法もある。沿岸海域は人間活動との関わりが深いため、創出する生息場の機能と関連づけながら、それを効果的に活用していくことが重要である。