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4. プロセスモデルによる協業支援システムの検討

本開発研究は造船業務を進めるうえで必要な、情報と知識を共有することにより個別受注生産という、造船業の基本的な特徴に由来する高度な協業作業(コンカレントエンジニアリング)を効率的に支援する、システム的な枠組みの実現を目指した。知識共有に関しては、既に述べたように、PMによる製品に関する知識と情報の共有と、プロセスモデルによる製品設計・工作のための業務手順に関する、知識と情報の共有が必要であり、この2つのモデルを高度造船CIMの中核モデルと位置付けた。プロセスモデルは、製品情報の生成、すなわち、PMの構築という設計作業を効率良く進めるための手順、及び構築されたPMを活用して整斉と生産業務を流していくための手順に関する、知識と情報を表現した情報モデルである。

しかし、プロセスモデルは協業支援を実現するための必要条件ではあるが、十分条件ではない。現実の設計作業は複数の設計者が相互に情報を交換し調整を図りながら進んで行くものであり、刻々と変化する設計状況に動的に対応することが要求される。これを考慮した協業支援のシステム的メカニズムを、元々静的な情報を表現するプロセスモデルのみで実現することは難しく、エージェント技術の援用が不可欠である。すなわち、造船の高度な協業を支援するシステム的枠組みは、プロセスモデルを基盤としながら、エージェント技術による支援を織り込んだシステムとして実現される必要がある。

以下に、まずプロセスモデルの必要性と協業支援システムの開発目標、新たに開発したプロセスモデルの詳細、プロセスモデルとエージェントを利用した協業支援システムの動作の仕組みについて述べた後、開発したACIM協業支援システムVersion1の機能について詳述する。最後に、より高度な協業支援システム構築へ向けての将来的な課題を述べる。

 

4.1 プロセスモデルの必要性と協業支援システムの開発方針

ここではまず、プロセスモデルの必要性をPMと対比しながら述べ、次いで協業を進めるうえで造船所が抱える問題点について考察を加えた後、現状のワークフロー技術の限界について触れ、その後協業支援システムの開発目標と方針を述べる。

 

4.1.1 プロセスモデルの必要性

船のような大規模な製品の設計業務は、多数の専門設計者がその製品の部分部分を担当し、他の設計者と情報交換、打ち合わせや調整を行いながら協調して作業を進めて行く。これらの作業間には必ず関連があり、ある設計者の意志決定は他の設計者の作業に影響を与える。これらの設計作業間で整合性を保ち、後戻り作業が無いように作業を流すためには、作業情報を正確にタイミング良く流し、設計者同士が効率的に協業する必要がある。

製品に関する情報・知識を表現したPMの共有によって、設計チームメンバーは、他の設計者が生成した最新の情報への迅速なアクセスが可能となり、整合性を持った製品設計を進めることが出来る。

 

 

 

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