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2. オブジェクトリクエストブローカーによる知識共有の仕組みの実現

本開発研究においてまず行ったのは、知識共有の仕組みの実現に関して、高度造船CIMの根幹である知識共有の意味するところを明らかにし、その実現のため、分散環境におけるオブジェクト間の情報交換と、相互連携に関する情報技術である「分散オブジェクト技術」の導入が必要であると指摘したことである。そして、この技術の業界標準である、CORBA規約により定義された「オブジェクトリクエストブローカー(ORB)」に基づく知識共有の仕組みを検討し、高度造船CIM(Advanced CIM、略して ACIM)の実現指針である「ACIMリファレンスアーキテクチャ」を策定し、これに基づいたプロトタイプシステムの開発とデータ交換実験を介して、分散オブジェクト技術の有効性を検証し、解決すべき課題とそれへの対応方法、及び本開発研究での実現内容を明らかにした。

その成果を受けて、ORBによる知識共有の仕組みを具体化するための一環として、ACIMリファレンスアーキテクチャを構成する、各カテゴリーの機能を具体化するとともに、その機能サービスの開発に着手した。

最終の本年度は、リファレンスアーキテクチャのサービスの実装作業を継続し、このアーキテクチャの実現目標とした機能群の実装を完了し、高度造船CIMの実現基盤を構築できた。

以下に、まず本開発研究の根幹である知識共有の意味するところを述べ、分散オブジェクト技術を概説し、ACIMリファレンスアーキテクチャの実現内容を詳述する。そして、協業支援環境の構築に特に重要な役割を果たすこととなったエージェント技術と、高度造船CIMの実運用時に重要な役割を果たす、PM管理機能を個別に取り上げる。

 

2.1 知識共有で目指すもの

造船CIMに関するこれまでの開発研究(例えば、平成3年度造船CIMSパイロットモデルの開発研究報告書)で明らかにされた通り、造船業は個別受注産業の特徴を典型的な形で持っている。

すなわち、船は要求される機能を実現するように設計され、工場の設備や操業を考慮した、最適な工作方法を実現するよう生産設計と生産計画が行われ、計画通り建造を進めるための生産管理が実施されるが、これを受注船ごとに迅速に実行するため、機能設計の内部では、例えば船殻設計と艤装設計が、互いに調整しながら同時並行的に設計を進め、また、同様に機能設計と生産設計の間でも、相互に調整しながら作業を行っている。

生産管理においても、計画と実績との差異を調整するための、工場内部門間の調整が必要であり、実績の後続船設計へのフィードバックが、生産性向上を持続的に実現するために極めて重要である。従って、造船業を構成する業務は、すべてのステージで、関連部署がそれぞれ情報を交換しながら調整を進める、典型的なコンカレントエンジニアリングを行っている。

 

 

 

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