4. 海氷用語解説
海氷の成長過程や流氷野の状態を示す呼び名は、国や地域によってまちまちであり、出版されている海氷用語集も十指を超える。国際的な統一用語の制定は、国際地球観測年(IGY)に備えて1956年に世界気象機関(WMO)によって試みられた。WMOは1970年に新しい海氷用語を英・仏・露・スペイン語で併記し、写真をつけた海氷用語集を刊行した。その邦訳は、久我雄四郎・赤川正臣(1971)「新しいWMO海氷用語について」(雪氷33、98〜105)として示されたが、後に修正が加えられて『海洋観測指針(気象庁編)』(1990日本気象協会複製版)に抄録された。分類一覧と若干の解説は『雪氷辞典(日本雪氷学会編)』(1990古今書院)にも収められている。
このWMO海氷用語の制定当時は、沿岸、船上、航空機からの目視観測が主であり、それに適した分類であった。その後、若干の改定(1985,1989)が行われて、潜水艦からの水中観測用語などが付加された。人工衛星利用の海氷観測が主役となって広域の海氷状況が得られるようになり、新たな海氷用語の追加と統一が求められているが、まだ国際的な選定には到っていない。広域の海氷用語に関してはロシアが使っている『海氷用語辞典』(2000 シップ・アンド・オーシャン財団訳)があるので、その分類と定義を加えることにして、WMOの海氷分類を中心に用語解説を記述する。
1. 浮氷の種類
水に浮いている氷の総称を浮氷(Floating ice)という。浅瀬や岸に乗り上げている氷を含む。海水が凍結した海氷(Sea ice)、湖でできた湖水(Lake ice)、河川でできた河氷(River ice)と、氷河や氷床などの氷が水面に浮いた陸氷(Ice of land origin)とに分類される。
2. 発達過程(Development)
新しく出来た氷を総称して新成氷(New ice)という。まず水中に針状または円板状の微細な氷の結晶が現れるが、これを晶氷あるいは氷晶(Frazil ice)という。晶氷が水面に集まった薄い層はグリース・アイス(Grease ice)と呼び、光をあまり反射しないので海面は鈍く見える。凍り始めに雪が降り注ぐと雪泥(Slush)ができる。グリース・アイスや雪泥が直径数cm位の柔らかい塊を作り始めると、白く見えるようになり、スポンジ氷あるいは海綿氷(Shuga)と呼ぶ。
海面が比較的穏やかな時には、光沢のない薄い氷が表面を覆う。厚さは10cm以下で、弾力があり、波やうねりでたやすく曲げられる。これをニラス(Nilas)と呼び、厚さ5cm未満の暗いニラス(Dark nilas)と厚さ5〜10cmの明るいニラス(Light nilas)とに分ける。
低塩分の水面が結氷するときには、もろくて堅い表面を持つ輝いた氷、氷殻(Ice rind)が生まれる。厚さはおよそ5cmで、風やうねりによって簡単に割れ、矩形の氷片が作られる。
ニラスが厚くなった10〜30cmの段階を、板状軟氷(Young ice)と呼び、厚さ10〜15cmの灰色の薄い板状軟氷(Grey ice)と、厚さ15〜30cmの灰白色の厚い板状軟氷(Grey-white ice)とに分ける。薄い板状軟氷はニラスより弾力がなく、うねりによって破壊され、圧力によって積み重なるが、厚い板状軟氷は圧迫されると積み重なるよりも隆起状になる。