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5.4 まとめ

 

以上、歴史的な本実船航海試験の成果を要約した。今航海でのNSRは異常とも言える氷の少ない状態であり、そのため、本船は氷を求めて北に針路を採った。その結果、記録的な短期間航海と、セベルナヤゼムリヤ群島の北の単独通過という63年ぶりの快挙を成し遂げることができた。今回の状況では、通常の沿岸沿いのNSRであれば、通常型の船舶でも十分航行可能であったと思われる(規則により、通常船型の船舶はNSRを航行できないが。4.3.3節)。勿論、本航海のみでNSR啓開の可能性を決定付けることはできないが、NSRの夏期航海が人々が想像する以上に容易であることを実証し、貨物満載状態のロシア主力氷海商船の航行性能を定量的に把握したことは、我が国のみならず、広く世界の造船・海運界の発展に寄与するものである。また、氷海航行における氷況情報の有用性とNSRにおける通信の問題点を明らかにすることができた。

本航海においては、ロシア貨物船をチャーターした。船長は外国航路のみならずNSR航行の経験も豊富の上、英語も大変流暢で、意思疎通に苦労することは殆どなかった。しかし、若い航海士・機関士の中には、氷海航行の実経験が少なく、英語の得意でない船員も見られた。また、支援砕氷船はロシアにとっては内航船であるため、船長であっても英語が得意でないこともある様である。もし商船側が外国船である場合、英語の得意なIce Pilotを乗船させることになるが(4.3.4節)、ロシア特有の運航習慣もあるであろうから、その様な場合でも、支援砕氷船とのスムーズかつ迅速な意思疎通が実現できるかは、若干の心配がある。調査団としては、今回と同様の試験航海を、西側船・西側乗り組み員により、また異なる季節にて、更に行うことが、次の課題であると感じた。但し当面は、ロシア当局が英語に堪能なロシア人船員を乗り組ませて、運航に支障が無い様に取り計らうとのことである。

総じて言えば、ロシアの氷海航行技術は大変高く、その支援体制もかなりのレベルを有している。しかし、長引く経済混乱によるNSR航行の減少と施設の老朽化のため、その技術の維持が危機に瀕していることも痛感した。

 

本章の記述は、以下の報告書を纏めたものである。

シップ・アンド・オーシャン財団 1996.3、平成7年度「北極海航路開発調査研究」事業 北極海航路実船航海試験調査報告書

 

 

 

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