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表層海流の移送速度は概略1〜4cm/sec(年間300〜1,200km)程度である。北極海の大きさが約4,000kmであるから、表層水は平均滞留時間3〜10年で入れ代わることになる。一方、氷の移動速度から換算すると、約5年になる。

北極海の海水の鉛直構造とその海水の平均滞留時間の概略を図4.5-2に示す。表層水については、上記の通りである。表層の低塩分水(Polar mixed layer)の下には塩分躍層(Halocline)があり、そこの水の平均滞留時間は10年程度、その下のAtlantic layerの平均滞留時間はおそらく30年程度であろう。その下のArctic deep waterの平均滞留時間は、100年を超える。

 

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図4.5-2 北極海の鉛直構造と海水の平均滞留時間

 

4.5.2 北極海の人類・生物環境

先ずは、汚染源の拡散、影響範囲を理解するために、食物連鎖の仕組みを述べる。北極海の海洋生態系も、他の海域と同様に食物連鎖の根幹となる生産源は、浮遊性の単細胞藻類や植物プランクトンなどの小さな藻類(Algae)であり、全生産源の97%を占める。植物プランクトンの増殖は、光と栄養富裕層に支配されており、春に起きる氷縁の後退にも密接に関係している。植物プランクトンは、食物連鎖において、その一つ上の栄養階層である小さな甲殻類などの動物プランクトンにより捕食される。更に、3番目の栄養階層であるタラなどの魚が動物プランクトンを食べることになる。魚は食物連鎖の最上位に位置する噛乳類や鳥類にとって大事な餌であり、食物連鎖の最上位に位置する氷上に生息する脊椎動物に、プランクトンからのエネルギーを伝える役割を担っている。図4.5-3に食物連鎖の概念を示したが、この図から、各環境系の要素(例えば海鳥)に影響因子が、どのように広がっていくか理解できる。

 

 

 

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