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3.3.8 海洋生物

 

陸上の植物が北極海沿岸に近づくにつれて、タイガからツンドラへと厳しい自然環境を反映しながら適応しているのに対して、広大な大陸棚上のNSR海域は、北極海の中でも海洋生物の豊富な海域である。極夜が明けて太陽が現れると、植物プランクトンの基礎生産が始まる。動物プランクトン、魚、鳥あるいは海洋ほ乳類と、春先から白夜の夏にかけて、食物連鎖の活動が活発になる。NSR海域で食物連鎖の頂点を占める大型動物は、ホッキョクグマ、セイウチ、アザラシ、クジラなどである。

しかし、これまでの調査が空間的にも時間的にも極めて限られているために、生息分布や生態などは十分わかっているとはいえず、今後の調査に待たなければならぬことも多い。2、3の大型海洋ほ乳類を取り上げて、その生息分布状況を概観してみよう。

ホッキョクグマは、総数は2万〜3万頭と推定され、行動半径もかなり大きい。氷縁付近を生活の場として、海氷域の前進後退と共に移動する。海氷が融け去ると、陸上で生活することもある。NSR海域では、3月にはノバヤゼムリヤやカラ海の沿岸部、セベルナヤゼムリヤの東側、ノボシビルスク諸島の北、ウランゲル島からチュクチ海にかけて、多く生息する。8月にはセベルナヤゼムリヤとウランゲルを中心にその周辺に集まってくる。

セイウチは、25万頭位いると推定され、その大部分はチュクチ海からベーリング海にかけて生息する。NSR海域ではラプテフ海やノボシビルスク北岸付近に5千頭位が生息する。

アザラシは、世界中には数百万頭はいると推定されているが、北極の数はあまり良くわかっていない。NSRの全海域にわたって見られるが、夏は沿岸近くに、冬は沖の定着氷縁のあたりに多く生息する。海氷域の中の水路や割れ目で呼吸をするが、海氷の成長中もいくつかの呼吸孔を維持し確保する。通常1回の呼吸で7〜8分、長いときでも20分位の潜水といわれ、海氷域が油で汚染されると、その被害を最も深刻に受けやすい生態をしている。

 

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アザラシの呼吸孔(植村、1977)

 

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アザラシの生息分布(3月)(WP-99)

 

 

 

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