3.1.2 白夜・極夜と北極海の気温
北極海は、ベーリング海峡付近のごく小海域を除けば、ほぼ全域が66゜33'N以北の北極圏にある。それゆえ、太陽が一日中沈まない白夜(極昼)と、太陽が一日中現れない極夜が存在し、その継続日数は北極点に近づくほど多くなる。ラプテフ海の海岸(72.5°N)付近では、白夜が88日、極夜が76日になる。さらに北に位置するスバールバル諸島やゼムリヤフランツヨシフの北岸(80.3°N)では、白夜が138日、極夜が126日に達する。白夜と極夜の日数が異なるのは、太陽が水平線下約0.5゜にあるときに、すでに光の屈折によって目に見えるからである。
白夜と極夜の期間の中心は夏至と冬至にあり、春と秋の日照時間も夏至と冬至に対して対称となるような変化を示す。夏至の頃に北極圏が受ける日射量は、太陽高度が低くても24時間受け続けるので、太陽高度が高くても半日だけしか受けない赤道域よりも、一日当たりの総日射量が多くなる。それにもかかわらず気温があまり上がらないのは、北極地方の夏に特有な雲と霧が日射を遮ること、雪や氷が受ける日射の大半を反射してしまうことなどの理由による。
北極海の海面気温の最高最低は、夏至と冬至から1か月ほど遅れて、7月と1月の頃に現われる。7月の月平均気温の分布を見ると、グリーンランドと北極海の中央部を除く広い範囲でプラスの気温となり、沿岸では8℃位の気温となることがわかる。北極海中央部に夏を越して存在する多年海氷域では、夏には表面から融解し、気温を0℃前後に保つ恒温効果が現れる。
一方、1月の月平均気温の分布からは、-44℃位の寒気の中心がシベリアとグリーンランドの大陸上にあり、-36℃前後の北極海中央部の寒気が-32℃程度のカナダ北極諸島の寒気とつながっているのを見ることができる。ノルウェー海からバレンツ海にかけての海域は、メキシコ湾流の北上によって熱が運ばれるので極夜の期間でも凍らない海となり、北極海中央部に比べておよそ30degほど高い気温を保っている。