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北極海航路の実質的啓開は、保険や科料体系等に多々問題を残してはいるが、ロシア海運界の救世主となることは確かである。

ロシア海運界が、ロシア資本の海外への不法流出の一員であってはならず、ロシア経済の復調がロシア海運界に及ぶには、海運界自体の努力は当然としても、国策としてのシナリオが必要であり、市場原理を基に整備された法制下の財政的約束がロシア海運界において守られることが、北極海航路発展の第一条件であろう。

 

2.4 技術的背景

 

北極海航路沿いの厳しい自然条件を克服するためには、技術面あるいは技術関連面では、少なくとも下記のような条件が整っていなければならない。

●航路沿いの気象、氷況等に関る資料・情報は航海の安全性を保全するに足る水準で整備されていること

●個々の航海においてこれらの情報が、ほぼリアル・タイムで入手し得ること

●様々な氷況下における航法の確立

●氷海域を安全に航行し得る航行性能の優れた船舶の設計、建造技術の確立

●支援砕氷船の設計・建造技術の確立

●航行支援・救難設備を持つ陸上基地の整備

●氷海航行訓練設備または訓練制度の確立

航路沿いの気象、氷況資料については、ロシアのグラースノスチ政策により次第に開示が進みつつあり、未整理のデータについても国際協力等による整理解析が進む期待もあることから、海洋物理学分野の協力の下、新規観測事業結果と併せて、整備が進むものと考えられる。

航行情報のリアル・タイムでの入手については、人工衛星リモートセンシングにより実行段階を迎えている。今後のセンシング技術の進歩、更なる極軌道人工衛星の打ち上げによって、より有効な氷海域最適航法の確立も夢ではない状態にある。

氷海中を航行する船舶の設計建造技術については、採算性、設計仕様との見合いもあり、航行性能にとっては最終ゴールのない技術目標であることから、確立されていると言う評価には異論もあるが、実用上差し支えない水準にあると言える。砕氷船の航行支援をどの程度の頻度で要請し、どのような具体的な支援を受けるのかによっては、そのような操船モードを前提とした船舶設計の在り方については、若干の研究が必要とされよう。

北極海航路においては、ロシア以外の砕氷船から支援を受けるシナリオは原則としてあり得ない。支援砕氷船については、ロシアが王政時代から育み、ソ連体制下においても戦略上の要件から連綿として研究開発を続け、改良してきた優れた設計・建造技術があり、それらが、西欧の採算性評価に耐え得るか否かは別として、当面ロシア固有の問題と考えてもよいと思われる。

陸上の航行支援施設、設備、救難設備については、現在、インフラストラクチャー全般の整備見通しが暗いことから、外国からの整備投資がなければ、今後の整備は殆ど期待できない状態にある。夏季の危険の少ない期間での航行では、ロシア側の主張のように、予測し難い突発的な事件がなければ、これら陸上施設の整備を航路啓開の絶対条件としなければならない理由はない。

 

 

 

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