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水辺は経済効果を上げるための1つのエレメントではありますが、その視点だけでは生活に戻ってくる海は取り戻せません。「なぎさ海道」は、海の匂いを取り戻すような取り組みであって欲しいと思います。

 

「なぎさ海道ムーブメント」に向けて

紙野 ありがとうございました。では、「なぎさ海道ムーブメント」に向けて、パネリストの方に一言ずつご提言いただきます。

鷲尾 水辺は人が触れられてこそ、価値が広がるものです。都市部の港湾区域や運河地帯をあきらめてしまうのではなく、行政も市民の協力も得て積極的に改善していく取り組みを行なっていく必要があります。

しかし先ほども申し上げたように、これを急激にやろうとすると別の無理が生じます。潮汐や風力などの自然のエネルギーをうまく利用して、海の底にどれだけ酸素を送り込めるかということにじっくりと取り組んでいけば、可能性は出てくると思います。

森崎 以前、兵庫県の河川改修の担当者が「川を見くびってはいけない。自然物は尊敬されるべきものだ」とおっしゃっていました。親水性はもちろん大切ですが、自然に対する畏怖の念を踏まえた上で整備をしないと、問題が生じます。

河川というのは、自然のものです。しかし運河は人間がつくったもので、物を運ぶという役目があります。河川と運河は非常に近しい関係ではありますが、自然と人工という差を考えないと、大きなしっぺ返しがあると思います。

中村 私は川が大好きで、ほとんど毎日水辺にいます。川は掃除をするだけでなく、そこで遊ぶことが大切です。自分たちが汚すから、自分たちで掃除をする。住民が動けば、必ず行政も企業も動きます。議論を重ねるのでなく、まず住民が動くことです。一人でも動けば、人は集まってきます。まちづくりでは、住民が引っ張るということが大事ではないでしょうか。徳島市では、これまで川を背にしていた家々が川のほうを向くようになりました。

喜多幡 私はじっとしていられない性分なので、とにかく動くということから始めました。走りながら考えているのであちこちにぶつかりますが、それが勉強となって前進してきました。どの市民運動の方も、これは同じではないかと思います。

私たちのような市民運動は、社会を変えていくベンチャーと言えるのではないでしょうか。一昨年河川法が改正になり、それまで機能性や安全性だけが重視されていた法令に、親水性や環境配慮、住民との合意の視点が取り入れられました。また今年の5月には海岸法も同じように改正になりました。私たちがぶつかりながら走り続けてきた間に、国の考え方自体が根本的に変わってきたのです。今後とも、私たちの主張を広めていきたいと思います。

紙野 ありがとうございました。最後に今日のご意見をまとめさせていただきます。鷲尾さんからは「魚たちのための安定した環境」というお話、また森崎さんからは「自然の尊厳を忘れてはいけない」という話がありました。これは「なぎさ海道」を進めていく上で、一番基本的なことだと思います。つまり科学的視点を押さえた「なぎさ学」という視点です。そのためにはいろいろな専門家の方が知恵を出し合い、データベースの収集や人材の掘り起こしなどをやっていく必要があると思います。

また、これからの「なぎさ海道」には、市民社会全体を横につなぐ役目があると感じます。本日ご紹介いただいた市民活動の皆さんは、自分の足元をしっかり見ながら、すでに「なぎさ海道ムーブメント」に先んじていろいろなことを進められています。このような市民活動を掘り起こし、つないでいけるようなことができれば、市民の声、市民の知恵がより生きてくると思います。

さらにムーブメントを起こす際も、市民、行政、企業が相互に対決型で動いていたのでは何にもなりません。対話型の交渉にそれぞれが積極的に参加していく。時間はかかるけれども実りは大きいということに目を向けていかなければならないと感じます。

同時に、専門家の存在も極めて重要です。それぞれの特徴を活かした場づくりを行ない、対話によって考えをつき合わせながら前に進めていく。これからの大阪湾にとって、これが重要であると思います。

最後に「楽しくやる」ということです。中村さんも特にこのことを主張していらっしゃいました。「なぎさ海道」もこれからは市民が楽しみながら活動を進められることを願います。以上で本日のリレートークを終わらせていただきます。

 

 

 

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