はじめに
「なぎさ海道」は、自然環境の保全と持続可能な開発を基本に、人と海が豊かに触れ合うことを目指し、大阪湾ベイエリアの新たな可能性を創造しようとするものです。平成9年3月に「なぎさ海道推進マスタープラン」が策定され、その理念と推進方策が提示されました。
その中で、新しい連携の仕組みと市民参加に基づく発見・ネットワーク・参加による「なぎさ海道ムーブメント」を起こすための息の長い取り組みが重要であるとされています。
「発見」とは、「もっと知ろう・伝え合おう、海辺のことを」という視点で、海辺の持つ様々な顔、自然や海辺で暮らす人々、情景など海からの視点によって海が私たちに何をもたらしてくれるのかを知り、伝え合うことから始めようとするものです。
「ネットワーク」とは、「海辺から人・モノ・情報の新しい連携を」という視点で、海辺を人・モノ・情報の新しい連携の場ととらえ、人と自然、人と産業、人と人との新しい出会いや体験を大阪湾ベイエリアの各地でネットワークしようというものです。
「参加」とは、「市民ひとりひとりの海辺への関わりを求めて」という視点で、国、府県・市町、企業などの協力はもちろん、市民ひとりひとりが手軽に参加できることから始め、その輪を大きく広げ、様々な人々が海辺に関わることを目指すものです。
このような考え方のもと、平成9年度より「なぎさ海道ワークショップ」において、海辺の現状説明・視察、地元で活動する人々の講演及び参加者の意見交換などを合計13回行ってきました。その概要については36、37ページにまとめています。
今年度最初の第10回ワークショップは、「海辺の歴史・文化の保存と新たな活用」をテーマに、「なぎさ海道」の対象エリアの最西端に位置する兵庫県赤穂市から御津町にかけての地域で行いました。かつて製塩業で栄えた赤穂では当時の塩田跡地に開園した赤穂海洋科学館「塩の国」の視察、廻船業で栄えた坂越と室津では歴史資源を活かした市民主体のまちづくりについて市民活動グループの方からの説明を聞くと同時にまち並みを視察しました。それらの取り組みの違いを対比させながら、残された貴重な歴史資源を活かした海辺のまちづくりについて考えました。
第11回は、「湖・川・海の連携─循環型社会を目指した水辺環境の整備と活用」をテーマに、大阪湾、淀川の水源である琵琶湖にて行いました。古くから近畿地方の文化と経済を支えてきた琵琶湖は、高度成長期以降、水質の悪化と生態系の変化が大きな問題となってきており、産官学及び市民がさまざまな取り組みを行っています。市民が親しめる湖岸の整備、生態工学を活かした水質改善の研究・実践活動を続けているBiyoセンターでの取り組み、さらに今では貴重な環境資源となりつつあるヨシの群生地の視察を通して、循環型社会と産官学及び市民のパートナーシップによる水辺環境のあり方について考えました。
第12回は、「なぎさ海道マスタープラン」策定以来の懸案事項でもある「なぎさトレイル」に視点をあて、既存の資源が数多く見られる鳴門市を開催地に選びました。鳴門市では地域の足として現在も3ヶ所で渡船が運航されているほか、遊歩道やサイクリングロードなどが整備されている一方、神戸淡路鳴門自動車道の全通により交通体系が自動車交通中心へと移行し、地域、産業、生活への様々な影響が見え始めています。そうした現状から、「なぎさトレイル─市民が親しみを感じる海の路の再発見」をテーマに、渡船への乗船、海辺に続くサイクリングロードのウォーキング、大鳴門橋の橋桁空間を利用した遊歩道整備の見学及び「楽しく歩ける海辺」についての講演を通して、「なぎさトレイル」について考えました。
今年度最終回となった第13回は、第1部のワークショップと第2部のフォーラムとで構成し、産官学及び市民参加のもとに運河を活かしたまちづくりがすすめられている神戸市の兵庫運河周辺にて開催しました。ワークショップでは「運河の活用と周辺整備─大都市の海辺の未来」をテーマに、神戸港の船上視察と、市民活動を続ける地元の方の案内により「兵庫津の道」のウォーキングを行いました。フォーラムについては、「なぎさ海道」の理念や取り組みを広く一般市民に知っていただくと同時に、「なぎさ海道」の活動を次のステップにつなげることを目的に開催しました。