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3. STCW条約の採択と、発効と1995年の全面改正

 

1967年3月、ドーバー海峡で発生したリベリア籍タンカー、トリーキャニオン号の海難は、原油による海洋汚染事故の重大さとその広範囲にわたる被害にタイタニック号の遭難とは異なる視点が必要であることを世界の人々に知らしめた。

そこで、船舶運航技術の未熟さによる海難防止を図るべく、船員の技能、知識基準を国際的に設定しようとする作業がIMCOを中心に開始され、その成果として『1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(STCW条約)』が採択されるに至った。

この会議には、先進海運国はもとより、発展途上国をはじめ便宜置籍国、社会主義国等を含め、海運に関係する殆ど全ての国が代表を派遣し、参加国は72カ国を数える大国際会議となった。

この条約の目的は、条約の名称が示す通り、船員に係わる国際基準を設定することにより、『海上における人命及び財産の安全を増進すること並びに海洋環境の保護を促進すること』にあり、締約国は、『船舶に乗り組む船員が任務を遂行するのに必要な能力を備えることを維持するため、この条約の十分かつ完全な実施に必要な法令の制定その他の措置をとること』を約束したのである。なお、この協定の中には、『この条約の対象とされている事項について定めた法令、この条約の定めるところにより発給される証明書の取得のための国家試験その他の要件並びに修学課程の内容及び期間の細目、等』について、IMO事務局長宛、『実行可能な限り速やかに、情報の送付』を行うことが定められていたばかりでなく、『技術協力の促進』に係わる条項を設け、『締約国は、この条約の目的を推進するため、発展途上国の特別の必要性を考慮した上、機関と協議し及び機関の協力を得て、可能な場合には国、小地域または地域を単位として、次の事項について技術援助を要請する他の締約国に対する支援を促進する。

事務職員及び技術職員の訓練

船員訓練機関の設立

船員訓練機関に対する設備及び施設の供与

適切な訓練計画(海上航行船舶における実習訓練を含む)の開発

その他船員の能力を向上させるための方法及び措置の採用促進』

と定められている。

しかしながら、1978年条約発効後も大型海難事故が相継ぎ、その事故原因に係わる人的要因Human Factorの重要性が指摘されたため、1993年から具体的な改正作業に取りかかり、2年間に10回をも数える会議を経て、全面改正の止むなしとみなすに至った。

しかし、改正にあたっては意見が分かれ、その結果、第1章(一般規定)内の諸規則を追加、強化によることによって条約を遵守、検証するシステムを構築するという手法が導入され、締約国は国内改正作業を推進し、新たな基準に基づいて条約要件を履行していく必要に迫られることとなった。

その検証の手法として、条約に定められている『情報の送付』について、IMOが指名する有識者(Competent Person)集団による条約基準遵守の評価がなされ、その評価にパスした国をIMO-MSC委員会において公表することとなった。この公表リストが世に『ホワイト・リスト』と呼ばれているものであるが、現在はこの検証作業が進行中でまだ公表されるまでには至っていない。

 

 

 

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