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粘度の高い油は水の吸収速度が遅くなる傾向があるがエマルジョンが生ずる速度は、主として、海況の関数である。風力がビュフォート風力階級で約3以上になると、やや低粘度の油が、約2〜3時間で、体積で60%ないし80%の水を含みうる。

これとは対象的に、非常に粘度の高い油は、同じ条件でも、10%の水を吸収するのに10時間以上かかる。そして、数日後でも、水の含有量が40%を超えることは希である。

通常、水を吸収することによって、黒色の油が、茶、オレンジ又は黄色に変化する。エマルジョンが進行するとともに、波の中の油の動きによって、油に取込まれる水滴が小さくなり、エマルジョンの粘性が、段々に高くなっていく。吸収された水の量が増大するとともに、エマルジョンの密度は海水の密度に近付いていく。

 

(7) 沈降

ある種の重い残渣油は比重1を超えることがあり、清水または塩水に沈む。しかしながら、海水に沈むほど密度の高い原油、あるいは残渣油だけで海中に沈むまでに風化される原油というのは、ほとんどない。沈降は、通常、油に沈降性の粒子または有機物の物質が付着したことで生ずる。ベネズエラ産のある種の重質原油、および、極めて重質の燃料油及び油中水エマルジョンは、1に近い比重を有しているので、ごく僅かの微細な物質が付いただけで、海水の比重(約1.025)を超える。温度もまた、中間的な浮遊性を持つ油の挙動に影響する。温度が10℃を超える変化をしても、海水の密度は0.25%しか変化しないのに、油の密度は0.5%変化する。昼間にはやっと浮いているという油が、夜間の温度低下により、密度が相対的に高まるために沈み、そのあとで、水温が高くなると再浮上することもある。

水深の浅い水域では、しばしば、懸濁性の固形物があって、沈降を促進する条件を備えている。外洋では生じにくいことであるが、動物性プランクトンが餌を捕食中に、偶発的に油の粒子をとりこみ、排泄物に取込まれた油が海底に沈降することがあるかも知れない。

砂浜に打ち上げられた油は、しばしば、堆積物と混合状態になっている。そして、もし、この混合物が、その後砂浜から洗い去られて、海に流されて沈降することがある。打上げられた砂浜で、重質の汚染物質は、油中に大量の堆積物を蓄積し、密度の高いタールマットを形成する。堆積物の積み上げと、その崩壊という季節ごとのくりかえしによって、油の層は絶えず埋没したり露出したりする。遮閉された海岸は微細な粒状の堆積物を形成する傾向がある。そして、もし、油が、これらの中に組込まれた場合、かなりの期間、そこに留まる傾向がある。

 

(8) 生物による分解(生分解)

海水は、ある範囲の海洋性細菌、糸状菌、酵母を含んでいて、これらは、油を炭素及びエネルギーの供給源として使用することがある。そのような微生物は、海中に広く分布しているが特に産業廃水や未処理の海水が流れ込んでいるような慢性的に汚染された水中に豊富に存在する傾向がある。

 

 

 

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